太陽生活ニュース

2012年2月14日(火) 12時41分 公開

ニュース解説:全国が注目する神奈川県の太陽光発電普及への取り組み「かながわソーラーバンクシステム」とは?

2011年4月に神奈川県知事に就任した黒岩祐治氏は、太陽光発電の普及拡大を公約の1つとして掲げ当選した。選挙運動中は、設置費用はいったん神奈川県が肩代わりし、県民は負担ゼロで住宅に太陽光発電システムを設置して、以後の売電収益を県に返済していくというモデルを提唱していた。しかしこれは、全量買取制度を前提としたモデルで、住宅向けは余剰電力の買取制度が継続されることが決まったためプランを変更し、「かながわスマートエネルギー構想」という新たなエネルギー戦略を提唱し、その実現に取り組んでいる。

「かながわスマートエネルギー構想」は、住宅向け太陽光発電の普及だけでなく、風力発電やバイオマス発電など他の創電事業、省エネ事業、電気を一時的に蓄えてピークシフトなどを可能にする蓄エネ事業も含んでいる。これら総合的な取り組みにより、2020年度には、県内の電気消費量の20%以上を原発に依存しない自然エネルギーと省エネでまかなうことを目標としている。

構想の中でも、住宅向け太陽光発電の普及は重要な取り組みだ。2010年度末時点で、県内で太陽光発電システムを設置している住宅は約3万戸だが、これを構想の中間期である2014年度には28万戸に増やす計画という。つまり3年で約10倍に増やす計画だ。実現に向けた最も重要な取り組みが今回取り上げる「かながわソーラーバンクシステム」である。今回は、神奈川県から委託を受けて「かながわソーラーバンクシステム」の運営窓口となる「かながわソーラーセンター」を運営する太陽光発電所ネットワークの都筑建氏と、神奈川県で「かながわスマートエネルギー構想」の推進を担当している山口健太郎氏にそれぞれお話をうかがった。(聞き手:太陽生活ドットコム編集長 小川誉久。以下、敬称略)

太陽光発電システムを安価に、安心して設置可能にするシステム

―― かながわソーラーバンクシステムとはどんなものですか?

都筑:できるだけ安価に、かつ安心して太陽光発電システムを設置してもらえるようにするのが最大の目的です。典型的なプランを業者にあらかじめ設定してもらい、県民からの申し込みを「かながわソーラーセンター」でとりまとめて業者に見積申込みします。

かながわソーラーバンクシステムのしくみ

かながわソーラーバンクシステムのしくみ
まずは県が共同事者を公募して、提案プランを提示してもらう(図中1~2)。その後、県は共同事者を選考し、協定を結ぶ(図中3~4)。県は事業の運営を「かながわソーラーセンター」に委託し、今回の事業に関して県民に広報する(図中5~6)。センターは県民に対して設置希望者を募集し、相談に応じながら、最終的に見積依頼があった県民をとりまとめ、それを共同事業者に送る(図中7~9)。これ以後は、通常の設置手順と同様に、業者と県民が直接やり取りして、調査や見積もり、契約、設置工事、アフターサービスを行う(図中10~13)。


―― この図をざっと見ただけだと、太陽光発電システムの販売業者の営業業務を、単に県の委託事業者が代行しているように見えてしまいます。

都筑:太陽光発電システムは訪問販売が主流です。訪問販売業者がすべて悪いわけではないのですが、消費者がわからないのをいいことに、法外な値段で売ったり、売りっぱなしであとは知らんぷりという業者がいるのも事実です。高額な買い物ですから、安心してまかせられる業者を選びたいわけですが、とはいえ消費者は、どうやって選べばいいのかわかりません。今回のシステムでは、県が業者を選考して、一定の基準をクリアした業者だけが対象になります。トラブルが発生しないと県が保証するわけではありませんが、安全性は高まります。

―― 設置価格はどうして安くなるのでしょうか。

都筑:代表的な設置プランを屋根形状などに応じていくつかのプラン(パターン)にし、太陽光発電メーカーに一括発注することで、共同事業者は大量発注によるスケールメリットを得たり、営業費用を削減したりできます。これにより、通常の販売価格よりも2~3割程度は安価になっていると思います。国の補助金は、キロワットあたり60万円以下で工事することを条件にしていますが、今回の目標は、キロワットあたり40万円をきるかどうか、というあたりにすえています。

―― 設置プランとはどのようなものですか。

都筑:屋根の形状(切妻屋根か、寄棟屋根かなど)と、屋根の材質に応じて、5つのタイプ(A~Dタイプ)に分類し、さらにこのタイプごとに、パネルメーカーや利用パネル、出力数などを決め、設置参考価格を設定したものです。県民は、自宅の屋根形状などからまずタイプを選び、次に個別のプランを選びます(具体的なプランの内容については関連リンクを参照)。

―― システムの図を見ると、「かながわソーラーセンター」は、相談や見積もりの受付業務を行っているとあります。具体的にはどのようなことをするのですか。

都筑:私が所属する太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)は、太陽光発電のユーザーが集まった団体で、設置して何年も太陽光発電を経験した人がたくさんいます。「かながわソーラーセンター」では、総勢10名ほどで交代制で相談窓口業務をしているのですが、PV-Netのメンバーが専門相談員になって指導しながら進めています。太陽光発電では、屋根の方角とか大きさによって発電量が変わってきます。セールスマンが相談に応じると、どうしても「パネルをたくさん売って売上を増やす」という方向に行きがちですが、私たちはあくまで中立な立場ですから、消費者側の視点で最適な構成を勧められます。また相談では、自身の豊富な経験を活かして、相談者のさまざまな疑問や不安にも答えます。通常相談は1時間程度ですが、長い人だと2~3時間ということもありますね。しっかり納得して購入に踏み出してもらえると思います。

―― プランといっても、実際の住宅の屋根形状などはさまざまです。なかなかプランどおりにはいかないのではありませんか。

都筑:実際の設置見積もりは、業者が実際に現地を見てから出します。現況によってプランどおりにいかなかったり、追加の補強工事が必要になったりする場合もあるでしょうが、何事もなくプランどおりにいけば、あらかじめ設定された費用で工事できます。最終的にプランと違いが出たとしても、プランの内容は目安としての基軸になります。何もわからず、いきなり見積もりを見せられるのに比べれば、見積もりの内容がガラス張りになります。また相談時にはできるだけ家屋の設計図面などを持ってきてもらい、現況にそったプランを選ぶよう心掛けています。

―― 業者に紹介した後、ソーラーセンターはどうかかわるのですか?

都筑:紹介後、1週間程度で業者が現地調査に入ります。調査の結果がどうだったのか、ソーラーセンターにも業者から報告してもらいます。設置工事が成約した場合は、最終的な工事内容も知らせてもらいます。一方県民の側にも、相談時にアンケートを持って帰ってもらい、その紹介が成約したか、現地調査や業者の対応がどうだったのかを後日センターに知らせてもらいます。

―― 今回の神奈川県の取り組みは、他県からも注目されているそうですね。

都筑:いくつかの自治体からヒアリングを受けました。今回の神奈川県の取り組みは、生協(生活協同組合)の共同購入のようなものだと思います。もともと生協は、卵とか牛乳などを安心・安全に、かつ共同購入で安く手に入れようと始まったしくみでした。訪問販売は、どうしても業者側に主導権があるので、消費者からは内容が見えづらく、トラブルの原因になっていました。今回の取り組みは、この訪問販売のしくみを開いて、消費者からガラス張りにするものでしょう。生協の活動が全国に広がったように、「かながわソーラーバンクシステム」のしくみも全国に波及するといいなと思っています。

かながわソーラーセンターのみなさん

かながわソーラーセンターのみなさん
左端が都筑さん。


脱原発依存、脱化石燃料依存をめざし、独自の取り組みを進める神奈川県

―― かながわスマートエネルギー構想とはどんなものでしょうか。

山口:原発事故による電力需給の逼迫に対応し、「安心・安全なエネルギーを将来にわたり安定的に確保すること」を目的とした、中長期的な神奈川県のエネルギー政策です。大原則は「原子力発電に過度に依存しない」「地球温暖化防止など環境に配慮する」「エネルギーの地産地消」。構想は、自然エネルギーを積極的に導入する「創エネ」、消費エネルギーを圧縮する「省エネ」、蓄電池等を活用してエネルギーを蓄えてピークシフトなどを可能にする「蓄エネ」の3本柱からなります。

神奈川県 環境農政局 新エネルギー・温暖化対策部 太陽光発電推進課 課長

神奈川県 環境農政局 新エネルギー・温暖化対策部 太陽光発電推進課 課長
山口健太郎氏

―― その中心となるのが「かながわソーラーバンクシステム」ということですか。

山口:風力発電やバイオマス発電など、創エネにもいろいろありますが、現状の技術や市場を考えれば、太陽光発電が中心になります。産業用などメガソーラーへの取り組みも進める一方で、最も設置が進みやすいのは住宅向けの太陽光発電システムだと考えています。これを推進するのが「かながわソーラーバンクシステム」です。

―― 「かながわソーラーバンクシステム」を立ち上げた背景には何があったのですか。

山口:これまでも神奈川県は、太陽光発電システムを設置する県民に対して補助金を提供して設置を後押ししてきました。けれども単純に補助金を提供するだけでは、財源の問題もあり十分な支援は困難でした。設置にあたっての最大のネックはやはり設置費用が高いことです。どうにかしてこれを安価にする方法はないか。一定量をまとめて販売できれば、業者としては1件あたりの利益を下げてもトータルではまとまった利益になるし、また県が一時的に表に立って業者のプランを標準化して県民に広くお伝えし、プランから選択してもらえば、業者の営業コストも削減できそうだ。こうしてスケールメリットとコストダウンを促せば、設置費用が低減されて消費者メリットにつながるのではないか。全国的にも初めての取り組みなのでリスクもあるが、まずは動かしてみよう、ということになりました。この中心軸となるのが今回の「かながわソーラーセンター」だったのです。

―― 十分な費用の低減は達成できましたか。

山口:このシステムの目標は太陽光発電システムの設置費用を、発電の経済メリット(売電収入+電気料節約分)により、10年程度で取り返せるようにすることです。設置時の補助金や、設置後の利用者による一定の節電も必要ですが、なんとか10年程度でバランスして、一部のプランでは実質的な自己負担をゼロにすることができたと思っています。

―― 住宅用太陽光発電の設置件数をこれから3年で10倍にするとうい目標は達成できそうですか。

山口:もちろん簡単ではありませんが、目標達成に向けて最大限努力します。また戸建て住宅に加え、共同住宅に対する設置支援を行っています。たとえば賃貸アパート向けの設置に対する補助金提供も実施中です。こちらは非常に好評で、目標100件のところ、すでに180件を超える申請をいただいています。来年度も継続していく見込みです。

―― 補助金といえば、神奈川県の補助金は、市町村の補助金が終了すると、県の分の補助金ももらえなくなってしまうという変則的なもので、読者から質問されることも多いです。

山口:窓口業務を市町村に一本化することで事務作業を軽減するのと、市町村側の補助金支給を促すという目的からそうしていたのですが、確かにオールオアナッシングのように見えてしまって、わかりにくいところはあったと思います。来期(2012年度)からは、市町村の補助金が終了しても、県の分だけでも支給できるように市町村側にお願いしています。

―― 補助金は、ソーラー・パネルを自宅に設置できるハウスオーナーしかもらうことができず、不公平だという声もあります。

山口:そういう声があることは承知しています。けれども太陽光発電システムという高額な機器を購入して、リスクをとって自然エネルギー活用に先行的な投資をしてくれているという見方もできます。県としては、マンションやアパートなどの共同住宅にお住まいの方で、自宅にソーラー・パネルを設置できない人向けに、別の場所に設置する際に費用を共同で負担してもらい、発電収入を還元するような「マイパネル構想」も検討中です。県民一体となって、脱原発依存、脱化石エネルギー依存を進められるように、さまざまな施策を検討・実施していこうと思います。


《太陽生活ドットコム 小川》

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