もちろん太陽光が当たる場所なら、マンションのベランダでも太陽光発電はできます。実際、マンションのベランダへの設置を前提とした小型の太陽光発電システムなども販売されているようです。しかし諸事情から、特に既築のマンションでは、一戸建て住宅と同じようなレベルで太陽光発電のメリットを受けることは難しいのが実情です。ここでは、賃貸ではなく、所有権付きのマンション(自己所有のマンション)を例に、主立った問題点をまとめてみましょう。
国による太陽光発電システム設置時の補助金や、余剰電力の高額買取策など、太陽発電の普及を進めるために国などがさまざまな支援策を実施しています(→関連記事)。しかし住宅向けの支援策は、いずれも「個人が自分の家に設置し、世帯単位で売買電する」ということを前提にしています。
マンションが最初から対象外になっているわけではありません。事実、新築マンションの中には、屋根に世帯単位にソーラー・パネルを設置して、世帯単位に電線をひき、世帯単位に売買電できるようにした、いわゆる「太陽光発電対応マンション」もあります。この場合は、戸建て住宅とまったく同等に余剰電力を売電できます。しかし既築のマンションの屋根に、世帯単位に太陽光発電システムを設置して、電線を各世帯まで引くのは事実上不可能でしょう。
住民の合意が前提になりますが、大規模改修のタイミングなら、設置できるチャンスはあるようです。石油製品販売大手の新日本石油(株)は、マンション向けの個別太陽光発電システムを発表しています。マンション向けということで、小型のパワーコンディショナを開発し、新築マンションや既築マンションの大規模修繕時を対象に販売すると説明しています。
なおマンションの中には、マンション住民の共同所有物として太陽光発電システムを設置して、エレベーターや照明などの共有設備の電力として利用する例などがあるようですが、この場合は個人向けに提供されている優遇策は利用できません。
屋根が難しいなら、ベランダにソーラー・パネルを設置したらどうでしょうか。これなら、屋根から電線をひきまわさなくても世帯別に設置できるはずです。しかしこれも問題があります。
まず、多くのマンションにおいて、ベランダは自己所有の領域ではなく、玄関や通路、エレベーターなどと同じ、共同所有の領域となっています。このためベランダの外側に発電モジュールを設置するには、マンションの管理組合の設置許可が必要です。景観の問題や消防法に抵触しないか、安全な設置が可能かなどのさまざまな問題から、事実上許可を受けるのは難しいようです。
仮に設置を許可してもらったとしても、現在発売されている主要なソーラー・パネル・メーカーの製品は、基本的に戸建て住宅の屋根に設置することを前提に設計されており、ベランダなどではうまく設置できない可能性があります。
またベランダは面積が狭いので、小さな出力のソーラー・パネルしか設置できません。パネル代は安くすみますが、設置工事に必要な固定のコスト(工事業者がやってきて作業する基本コスト)は小出力だからといって安くなりませんから、相対的に工事費用が高くつきます。
発電効率が最も高いソーラー・パネルの置き方は、南向きに30度傾けて置くことだとされています。マンションのベランダに設置する場合、ソーラー・パネルは壁面に設置することになると思われますが、仮に壁面が真南だったとしても、90度の傾きで設置すると、30度設置に比べて20%ほど発電量が落ちてしまいます。
つまりマンションのベランダへの設置は、そもそも設置が許可されない可能性が大きく、また設置が許可されたとしても大容量の発電モジュールが設置できず、その割には工事費用は安くなく、それでなくても小出力のモジュールしか置けないのに、発電効率的に有利な設置も難しい、ということになります。
残念ではありますが、以上を総合的に見ると、戸建て住宅のように、既築のマンションに個人所有の太陽光発電システムを設置して売電もするのは不可能だといわざるをえません。大規模修繕時に設置することは可能ですが、多数の住民の合意が必要ですから、こちらも残念ながら、設置できるケースは例外的な範囲にとどまるでしょう。
(2011/4/12 更新)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。