太陽光のエネルギーを電気に変換するのがソーラー・パネルですから、パネルが陰に入ってしまったら、陰の影響に応じて発電量が減ります。このとき普通に考えれば、陰が差し込んだパネルの面積分だけ発電量が落ちるように思いますが、そうではない点を知っておく必要があります。
実際の陰の影響は、ソーラー・パネルの構成(結晶型か、シリコン薄膜/CIS/CIGS型か)によっても変わってきますが、ここでは最も普及している結晶シリコン型のソーラー・パネルで説明します。
結晶型ソーラー・パネルは、15cm×15cm程度のセル(→用語解説)が何枚か並べられています。例えばここでは、以下のように、54枚のセルが並べられたパネルを例にとります。
パネル内部のセルは、電気的にはすべてが直列に接続されています。セル1枚が1個の乾電池だとすれば、それぞれのプラスとマイナスを次々と接続した状態になっています。
そして通常は、図のオレンジ色の矢印に沿って電気が流れます。すべてのセルが直列に接続されているわけですから、折り返しながら一筆書きの要領で電気が流れるわけです。
しかし直列の接続しかないとすると、たった1枚のセルが故障したり完全な陰に入ったりするなどの理由で発電しなくなると、直列接続されたすべてのセルが影響を受けてしまいます。直列接続された新しい乾電池の中に、1つだけ古く弱った乾電池を入れると、弱った乾電池に引っ張られて、全体の電気の流れが減るのと同じです。ただし乾電池の場合と違って、太陽電池では、1つのセルが陰に入るなどして発電量が減ると、全体的な電流量もそこで制限されてしまいます。例えばセルを直列接続して5Aの出力が得られている場合、1つのセルが陰に入って1Aしか出力できなくなったとすると、全体的な出力も1Aになってしまいます。
そこで実際のパネルでは、そうした障害などが起きても影響を小さくできるように、内部をいくつかのブロック(サブモジュール・ブロック)に分けて、必要に応じてそのブロックの内部を迂回できるように「バイパス」と呼ばれる電気のとおり道を用意しています。上のパネルの例では、縦2列が1つのサブモジュール・ブロックになっており、緑の点線部分がバイパスを表しています。ただし何もなければ、図のようにバイパスには電気は流れません。
さてここで、左下の隅にあるセルの1つを何かで覆って光をさえぎり、まったく発電しなくなったとしましょう。こうなると、そのセルには電流が流れなくなり、結果としてそのサブモジュール・ブロックの出力は0になります。すると、一番左のバイパス回路に電気が流れ、陰になったセルを含むサブモジュール・ブロック全体が電気の流れから切り離されます。陰になっているのは、54枚あるセルのうち1枚だけですから、陰の影響を受けているのは1/54=2%だけですが、サブモジュール・ブロック1つがまるまる切り離されるので、発電量は18枚分、33%も減ってしまいます。
さらに右隣のセルも隠したらどうなるでしょう。この場合、隠れた2つのセルは、同じサブモジュール・ブロック内にありますから、次のように発電量はセル1枚を隠したときと変わりません。
さらにさらに陰が伸びて、もう1つ右隣のセルも陰に入ってしまったとしましょう。この3枚目のセルは、中央のサブモジュール・ブロック内にありますから、中央のバイパスも使われて、サブモジュール・ブロック2つ分が切り離されてしまいます。陰の面積は4/54=6%しかありませんが、36枚のセルが切り離されるので、影響は36/54=67%にもなってしまいます。逆にいえば、全体の33%しか発電に寄与しなくなるということです。
実際の運用では、セルの1枚だけが完全に発電しなくなるということは普通は起こらないので、これは極端な例ではあります。ただしセルが故障した場合には、同様のことが起こります。例年に比べて発電量が目立って減ったとか、搭載したパネルの出力数の割にはあまりに発電量が少ないというような場合には、故障を疑う必要があるかもしれません。ソーラー・パネルの場合、故障が起こってもそれがわかりにくいので、日ごろから発電量などをチェックすることが重要です。
故障以外でたまたま雲が横切ったとか、鳥の陰が入ったということなら、影響は一時的ですので問題はありません。ただし注意が必要なのは、周囲の障害物の陰(伸びた樹木、周囲の突起物など)や、パネルの汚れ、パネルに貼りついた障害物(落ち葉など)、常態的に陰が入る場合です。これまで説明したように、陰になっている部分はごく一部でも、大幅に発電量が低下する恐れがあります。排除可能な陰については、できるだけ排除して、発電量低下を防止しましょう。
参考:PVRessQ! 第一次中間報告(2006-2008年度)「陰の影響について」 加藤和彦 著
(2010/6/29 更新)
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