太陽光発電ユーザーの全員に課税されるわけではありませんが、条件によって課税対象になる場合があります。
太陽光発電では、余剰電力を電力会社に売って(売電して)、収入を得られます。簡単にいえばこれは「売上」になります。普通のサラリーマンの家庭では、自宅兼店舗で商売をしているのでもなければ、自宅で何かを売って売上を得ることはないのですが、太陽光発電システムを設置すると、売電で売り上げをあげられるようになるわけです。この売上は雑所得とみなされます。
読者の多くは、サラリーマンなどの給与所得者で、毎年年末に年末調整をしているのではないかと思います。この場合、売電を含めた雑所得の年間の合計額が20万円以下であれば、税務署に確定申告する必要はありません(売電以外にも雑所得がある場合は、それらも合算する必要があります)。つまりこの場合は実質的に課税が免除されるわけです。
では、年間の売電総額が20万円より多ければ申告が必要なのかといえば、そうではありません。太陽光発電システムの設置費用を減却償却して、一部を経費として所得から引き算できるからです*1。減価償却はわかりにくいので、すぐ次で具体例を示しながら説明するとして、申告が必要かどうかの判断をまとめると次のようになります。
申告有無の判断基準
ただし「20万円以下は申告免除」が適用されるのは、年末調整によって所得税額の確定と納税が完了する給与所得者の場合だけです。読者が個人事業主である場合など、確定申告をするときは、売電の金額にかかわらず、年間の売電額を雑所得に加えて申告する必要があります。また事業主でなくても、医療費控除を申告したり、株式の譲渡益などを申告したりするなど、確定申告を行う場合には必ず申告が必要になります。いま述べた太陽光発電システムの減価償却はこのケースでも適用されるので、年間の売電額からシステムの償却分を減算して、売電による雑所得の金額を計算します。
では、太陽光発電システムの減価償却費の算出方法について具体的に説明しましょう。減価償却とは、収益を得るために必要な資産を取得するのにかかった費用の一部を、必要経費として、収益から減算することです。太陽光発電システムの償却期間は17年です。ですので、設置から17年の間、全体の17分の1ずつ毎年の必要経費として計上できることになります。
例として今回は、総額228万円の工事費で4kWの太陽光発電システムを設置したとします(1kWあたり57万円の設置費用)。補助金がもらえるのは国からだけとすると、4kWで28万円(4kW×7万円)を受給できることになります。当然ながら、補助金分は償却対象には含まれませんから、まずは228万円から28万円を引き算して、実質的に自分が払った金額を求めます(228万円-28万円=200万円)。もちろん、都道府県や市区町村からの補助金を受給した場合には、その分も引き算する必要があります。
この200万円を17分の1にすればいいかというと、そうではありません。住宅用太陽光発電では、ソーラー・パネルで発電した電気のすべてを売電しているわけではなく、まずは自分の家で使い(自家消費)、それで余った分だけを売電します。つまり、太陽光発電システムの一部分は、収入を得るためでなく、自分で消費する電気を作るために使っているわけです。上で説明したとおり、減価償却の対象は「収益を得るための資産」ということですから、収益外に使われている資産部分は対象になりません。
とはいえ、自家消費にしろ、売電にしろ、使っているのは同じ1つの太陽光発電システムです。このような場合には、全体のどれくらいを自家消費に使っていて、どれくらいを収益を得るために使っているかという割合を考えます。ここでは、全体の70%を売電に使っており、30%を自家消費に使っていると仮定しました。この割合の求め方については後述します。全体の70%を売電するというのは、かなり成績のよいケースでしょうが、共働きで昼間は家にだれもいないというような場合には、これくらいの割合になる可能性は十分あります。
200万円のうちの70%を売電に使っているわけですから、売電分の資産価値は140万円(200万円×0.7)、自家消費分は60万円(200万円×0.3)となります。
140万円の資産を17年で償却するのですから、1年分の経費は140万円の17分の1で8万2352円となります。
以上の計算を図にすると以下のようになります。
減価償却の算出例
さて、それでは減価償却費がわかったので、次は申告の有無と申告すべき収入について計算してみましょう。ここでは仮に、4kWのソーラー・パネルで、1年間トータルで3500kWhを発電したとします。このうち70%を売電したのですから、売電した電気は3500kWh×0.7=2450kWhです。1kWhを48円で売電したとすれば、トータルの売電額は2450kWh×48円=11万7600円となります。
売電額は11万7600円ですが、減価償却費を経費として引き算できますから、申告に必要な収入は、11万7600-8万2352円=3万5248円です。当然ながら、20万円より低いので、他に合算すべき収入がなければ、年末調整をするサラリーマンの場合、確定申告は不要ということになります。
確定申告は不要なケース
発電量などは、設置条件によっても変わってきますが、4kW出力で年間3500kWhというのは、まあまあの発電量だと考えられます。つまり、4kW程度のソーラー・パネルを設置しても、給与以外にまとまった収入がないのであれば、たいていの場合、確定申告は不要でしょう。ソーラー・パネルの出力が大きくなれば、それだけたくさん発電して、たくさん売電できますが、その場合は太陽光発電システムの価格も高額になるので、減価償却費も大きくなります。結論からいって、太陽光発電の売電だけなら、申告すべき年間の雑所得額が20万円を超えることはほとんどないでしょう。
しかしたとえば、ある年に、太陽光発電による売電とは別に、19万円の給与外収入があったらどうでしょうか。この場合は次のように、太陽光発電の売電と合わせて収入の合計が20万円を超えますから、確定申告が必要で、22万5248円の給与外収入があったことを申告しなければなりません。
確定申告が必要なケース
今回は70%と30%とした売電/自家消費の割合ですが、これはどうやって決めたらよいのでしょうか。売電分の割合が多いほうが、減価償却できる経費は増えますから有利になりますが、もちろん言い値が通用するわけではありません。
毎月売電した電気の量は、電力会社から渡される検針票に明記してありますから、これを1年分合算すれば、売電した電気の量を正確に測ることはできます。しかし問題は自家消費された電気の量です。これを知るには、ソーラー・パネルが1年間で発電した総発電量を求め、そこから電力会社への売電量を引き算して求めることになります。発電モニタなどがあれば、総発電量もわかるはずですが、基本的には毎月の発電量などをメモしておく必要があるでしょう。太陽光発電システムの故障を早期発見するためにも、毎月の発電量をメモするのは非常によいことですが、面倒な作業でもあり、実際にはやっていない人も多いようです。
機種によっては、あまりにも過去の発電量を調べられないものがあるかもしれません。この場合、いざ確定申告に行こうとしても、売電と自家消費の割合を証明する資料がないことになります。税務処理上問題がないのなら、直近数カ月分から年間の割合を推測するなども可能かもしれません。これは税務署がどう考えるかの問題なので、今回は実際に筆者の住まいがある管轄の税務署に電話をして問い合わせてみました。
この結果、「年間の傾向とみなせる数カ月分の資料があれば、そこから割合を算出できる可能性はある」「ただしあくまで、自分の都合のよい『数カ月』ではだめで、年間傾向を推測できるものでないといけない。場合によっては、1年分の正確なデータを求めることもある」という回答でした。ただ、回答してくれた担当者は太陽光発電にそれほど詳しくなく、「年間の総発電量を正確に知るのは簡単でない場合がある」といくら説明しても、あまりきちんと理解してもらえませんでした。「すでにここ数年で多数の家がソーラー・パネルを設置しているが、売電を確定申告している人はいるのか」と聞くと、「自分はまだ見たことがない」との回答でした。徐々に状況は変わるでしょうが、当分の間、税務署に説明が必要な場面では、かなりの苦労を覚悟する必要がありそうです。
やはり基本的には、毎月の発電量をメモしたものと、毎月の売電の検針票をとっておいて、確定申告時には税務署に持参するのがよさそうです。
取材協力:杉山会計事務所 杉山靖彦 税理士(http://www.ysk.gr.jp/)
*1 税務署によっては、個人所有の太陽光発電システムの売電収入に対して、システムの減価償却を認めない場合があるとのご指摘を読者からいただきました。本記事は、実際に税務署に取材をし、税理士の確認も得て公開していますが、減価償却の扱いについては、税務署によって判断が異なる場合があるようです。お住まいの地域でどのような扱いになるかは、所管の税務署にて確認してください。
(2011/3/30 更新)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。