東日本大震災における福島第一原子力発電所の災害では、放射性物質が周囲に漏れ出し、近隣住民が避難を余儀なくされたり、農作物や水道水が汚染されたりという前代未聞の被害が広がりました。原発事故の恐ろしさを、私たちはまざまざと見せつけられました。
この事故の影響で、「原子力発電などもうたくさんだ、危険な原発はやめて、安全で自然にやさしい太陽光発電にとって代えるべきだ」という声をよく聞くようになりました。クリーンで安全な太陽光発電と、ひとたび事故を起こせば大惨事になる原子力発電のどちらが好きかと聞かれれば、答えは聞くまでもないでしょう。しかし電気に依存した私たちの生活を支えるために、太陽光発電には原発に代われるような十分な能力があるのか、ある程度客観的に考える必要があります。
あらゆる側面から詳しく比較するのは困難なので、ここでは両者の「発電量」に注目して、それぞれの能力を比較してみましょう。
今回比較するのは、事故を起こした福島第一原子力発電所の年間発電量と、日本全国の住宅の屋根に設置された全ソーラー・パネルの年間発電量です。あくまで福島第一原発1カ所との比較であって、日本全国にあるすべての原発との比較ではありませんので、あらかじめご注意ください。
今回は、全国でソーラー・パネルを設置した住宅は80万件、各住宅は1件あたり4kWのパネルを搭載、この4kWのフル出力で、毎日3時間、1年間発電し続けるものと仮定しました。かなり大ざっぱではありますが、現時点で日本の住宅に設置されているソーラー・パネルの発電量の概算としては、それほど間違っていないと思います。住宅以外にも、メガーソーラー発電所や産業用の太陽光発電がありますが、日本では住宅向けが圧倒的に多いこと(産業用の4倍程度)、身近な住宅用太陽光発電との違いを比較したいということから、住宅向け太陽光発電に限定して比較しています。これら計算値の詳しい根拠については、太陽生活MORE(ブログ)の別記事としてまとめてあるので、必要なら参照してください(「太陽光発電は原発の代わりになるのか? 発電量を試算、比較してみた」(太陽生活MORE))。
東京電力が発表している資料(資料はこちら)によれば、福島第一原子力発電所の年間発電量は32,949,000,000キロワット時=33テラワット時だそうです。対する住宅太陽光発電のほうは、80万件×4kW×3時間×365日を計算して、約3.5テラワット時となりました。おおよそ、福島第一原発の10分の1の発電量という結果です。
福島第一原発と、日本の全住宅の太陽光発電の年間発電量比較(概算)
住宅の年間発電量は、80万件、1件あたり4kWのパネルを設置、これが1日3時間フル発電して、その365日分とした。
現状の住宅向けソーラー・パネルの年間発電量は、おおよそ福島第一原発の年間発電量の10分の1という結果でした。ですから、住宅向けソーラー・パネルで福島第一原発と同じだけ発電したければ、いまの10倍、800万件の家がソーラー・パネルを設置すればいいわけです。現在は80万件ですから、あと720万件増えればいいということですね。
では、720万件の家にソーラー・パネルを設置するのに、いったいいくらかかるのでしょうか? 1件あたりの設置費用が仮に200万円だとすれば、200万円×720万件=14.4兆円が必要という計算になります。
福島第一原発と同じだけ発電するには、あと14.4兆円のお金が必要
1件あたりの工事費用は200万円と仮定した。
庶民にとっては、14.4兆円といわれてもピンときません。新聞報道によれば、東日本大震災の復興費用は、14.6兆円と見込まれているそうです。大震災の復興費用と同じくらいのお金が必要になるということですね。福島第一原子力発電所1個所の発電量を得るためだけでも、これだけのお金が必要になってしまいます。
けれども必要な費用はそれだけではありません。これだけの数のソーラー・パネルが設置されて、逆潮流(→用語解説)するとなれば、電力系統(電力会社の電線網)の強化が必要ですし、何より太陽光発電は昼間しかできませんから、多くの電力を太陽光発電に依存するとなれば、発電できない夜に備えて、どこかに大容量のバッテリ(蓄電池)を設置する必要があります。これにはおそらく、太陽光発電システムを設置する費用(14.4兆円)の数倍のお金が必要になるでしょう。
今回の試算では、「720万件ものソーラー・パネルは置けるのか?」という点は考慮していません。日本の戸建て住宅の数は2000万件程度という資料がありましたが、ソーラー・パネルの設置に適さない家もかなりあると思われますので、場所の確保も簡単とはいえないでしょう。
太陽光発電を推進する私たちとしては、心情的には「危険な原子力エネルギー利用に代えてクリーンで安全な太陽光発電」といいたいところです。しかし、いろいろと単純化した試算とはいえ、発電量と費用の点で、これは簡単ではないといわざるをえないようです。
今回の比較は、大量の電気を求めに応じて安定的に提供し続けなければいけない電力会社の視点で、原子力発電と太陽光発電を比較したものです。個人の住宅で「地産地消」を基本として使う太陽光発電は、まったく別の話です。本サイトの別記事でもご説明しているとおり、太陽光発電システムの現状の価格でも、個人レベルなら条件によっては十分投資に見合うメリットが得られます。本記事は決して、太陽光発電全体を否定するものではありませんので念のため。
(2011/4/14 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。