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解説:簡単ではない全量買取への移行

日本政府は現在、太陽光発電システムの設置を促すために、設置時点での補助金支給と、余剰電力の高額買取という2つの支援策を実施しています。これらをきっかけに、太陽光発電に関心を持ったり、購入を決めたりする人は多いようです。

しかし政府は、現在の余剰電力の買取から、全量買取制度(発電した電力をすべて電力会社が買取る制度)への移行を検討しています。このため政府は、有識者などで構成されるプロジェクトチーム(再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム)を結成して、全量買取への移行の利点や欠点、具体的な実施方法などをさまざまな角度から議論しています。ここでは、プロジェクトチームでどのような議論がされているのかを、会合で配布された資料(2010年3月24日に開催されたプロジェクトチームの第4回会合で配布された資料)を基に紹介します。なお今回議論されている全量買取制度は、太陽光発電だけでなく、水力発電や風力発電、バイオマス発電、地熱発電なども対象としていますが、ここでは個人住宅向けの太陽光発電に絞って取り上げます。

全量買取制度とは?

最初に、全量買取制度とはどんなものなのか。現行の余剰電力買取制度と何が違うのかを確認しておきましょう。

余剰電力だけを売る方式(現在の方式)

現行の余剰電力の買取では、下図のように、太陽光発電された電気は、まずは宅内の電気機器で使用(消費)されます。使用する電気の量が発電量よりも多いときは、不足分を電力会社から買います。一方、使用量よりも発電量のほうが多いときは、余った電気(余剰電力)を電力会社に売ります(売電)。図では、仮に太陽光発電の量が30だとして、このとき宅内での消費量が10だったため、20の余剰電力を売電している様子を示しています。

余剰電力の売電(現在のしくみ)

余剰電力の売電(現在のしくみ)
現在のしくみでは、太陽光発電された電気はまず宅内で消費され、余りがあった場合にだけ売電する。図は、仮に太陽発電の量が30、宅内消費が10として、20の余剰電力を売電している様子を示している。

現時点で太陽光発電システムを設置すると、通常の買電メーターに加え、余剰電力メーターを設置して、売電した電気の量を計数できるようにしています。

全量買取方式

全量買取方式になると、次のように変わります。

全量買取方式

全量買取方式
全量買取方式では、太陽光発電した電気はいったん全部売電する。消費している電気は、これとは別に買電する。

前の図と同じく太陽光発電する電気の量を30とすると、全量買取制度では、発電した30の電気をすべて電力会社に売電します。一方、宅内では10の電気を消費していますが、こちらは太陽光発電とはまったく別に電力会社から電気を買って使います。

全量買取の問題点 その1:メーターの移設や追加配線工事の費用

上の図でわかるとおり、すでに現行制度で太陽光発電システムをしている人が全量買取制度に移行するには、メーターの移設や宅内の配線工事が必要になります。1軒あたりの追加工事費用は10万円程度だそうです。資料によれば、すでに太陽光発電システムを設置している家は50万軒ほどあるため、全員が移行するには500億円程度の費用がかかるそうです。このためプロジェクトチームでは、新設または既設の希望者のみに全量買取制度を適用するという案も検討しています。この場合、すでに太陽光発電システムを設置していて、全量買取を希望しない人は、現在の余剰電力買取が継続されます。

全量買取の問題点 その2:省エネ意識が低下する

現在の余剰電力の買取制度で売電量を増やすには、節電が大きなポイントになります。いくら発電しても、宅内で使ってしまったら余剰が生まれないからです。これに対し全量買取制度になると、消費電力とは無関係に売電できるようになります。このため、節電意識が低くなってしまうのはないか、という懸念があります。

全量買取の問題点 その3:系統が不安定になりやすくなる

「系統」というのは、電力会社の電線網のことです。余剰電力の買取では、余った電気だけが系統に流れ込みますが、全量買取制度では、太陽光発電された電気がすべていったん系統に入ります(上の図のとおりに接続された場合)。太陽光発電は、天気によって発電量が左右され、制御ができませんから、電力系統は不安定になりやすくなります。少ないうちはいいのですが、多くの家が太陽光発電システムを設置すると、変動をやわらげる蓄電設備などの追加が必要になってきます。このコストを誰が負担するのかは決まっていませんが、社会全体でみればコスト増の要因になります。

全量買取の問題点 その4:太陽光サーチャージが高くなる?

全量買取に移行した場合の具体的な買取価格は決まっていませんが、全量買取への移行とともに、補助金(設置時補助金)の終了も検討項目に上がっています。CO2排出削減など、太陽光発電はまだまだ増やしていかなければいけませんから、補助金をなくすとすれば、その分も含めた利点を電力の買取だけでカバーする必要があります。こうなると、余剰電力の買取方式よりも電力の買取にかかる費用は大きくなり、太陽光サーチャージ(→用語解説)による国民負担も大きくなるはずです。

資料では、買取制度によって、いくらまでの負担増なら許せるか、というアンケートの結果も掲載されています。これによれば、現在の負担水準である「100円/月 以下」という回答が全体の48.5%を占めています。ここから大幅に負担を増やすのは国民感情からは難しいことがわかります。このためプロジェクトチームでは、現在のように電気代にだけ負担を追加するのではなく、より広く環境に負荷をもたらすものに税金をかけ、それを財源の一部とする方式も検討されています。

全量買取の問題点 その5:補助金をなくして(減らして)普及は進むのか?

2010年度予算案の事業仕分けにおいて、「全量買取制度の導入にともなって、太陽光発電に対する補助金を廃止すべき」という指摘がなされました(→関連ニュース)。

現在、太陽光発電システムを設置するときには、国や都道府県、市区町村から設置時の補助金をもらえます。場所によりますが、30万円から多いところでは100万円近い金額になる場合もあります。太陽光発電システムは安くない買い物で(300万円程度)、長い目で見れば回収できる可能性はあるとしても、初期の投資額が大きいことは、購入をためらわせる大きな要因になっています。たとえ全量買取で毎月の売電金額は増えたとしても、補助金をなくすと、最初に支払う金額が大きくなり、普及が停滞してしまうのではないか、という意見があります。

また現在の国の補助金は、太陽光発電システムの出力1kWあたりの工事費に上限を設けており(平成22年度は65万円/kW以下)、このことが、工事費用を一定以下に抑える効果をもたらしています。補助金がなくなると、この制限もなくなりますから、場合によっては、不当に高額な工事料金を請求する悪質業者が現れる危険もあります。

なにより、国の補助金が支給されるようになって、太陽光発電はこれまで順調に普及してきており、この流れに水をかけてよいのか? という声があるようです。

住宅向けは余剰電力買取制度を続行する可能性も

これまでに、全量買取制度への移行の問題点についてまとめました。いずれもハードルとしては高いといってよいでしょう。現在、プロジェクトチームがまとめた「全量買取制度についてのオプション」を見ると、住宅向けの太陽光発電システムについては、現行の余剰電力買取制度を続行する方式も選択肢の1つになっています。

今後、太陽光発電システムの導入支援制度がどのように変わっていくのか、個人ユーザーとしても大変気になるところです。この問題については、継続的にウォッチしていきましょう。

(2010/4/16 公開)

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