個人住宅向けの太陽光発電システムの設置もかなり進んできており、最近では、近所のホームセンターや家電量販店、街の電気店、太陽光発電対応住宅がある住宅展示場など、写真ばかりでなく、実際の太陽光発電モジュールを見られる機会も増えてきました。すでに、実物をご覧になった方も多いことでしょう。
太陽光発電モジュールは、次のような工程で作られています。
たいていの太陽光発電モジュールは、上の写真のように、15cm角くらいの四角いマス目で区切られています。この1つの薄い四角形が図の「ウエハ」(ウエハスライスのうちの1枚)です。図でもおおよその流れは分かるのですが、実際にどんな風に作っているのか、現場を見てみたくなります。なかなか写真を公開しているところはないのですが、インターネットを探したところ、イギリスのPV Crystalox Solar plc(以下、Crystalox社)というウエハの製造メーカーが、報道機関向けに製造工程の写真を公開していました。今回はこの写真を元に、多結晶シリコンウエハ製造の流れをご紹介します。なおこの記事は技術を解説するのが目的ではなく、あくまで製造工程の流れを社会科見学的に見ていくものですので、細かいことは説明しません。あしからず。
なおCrystalox社が公開しているのは、「ウエハ」を作るところまで(図の③まで)です。ウエハにpn層を形成して電極を形成したものは「セル」と呼ばれますが、Crystalox社が行っているのはウエハ製造までのようで、セルの製造工程の写真はありませんでした。
ウエハの原料になるのは、シリコン(原子記号Si。「ケイ素」ともいう)という物質です。シリコン自体は、世界じゅうの岩石の中に含まれています。ただしウエハ製造に利用するには、さまざまな物質とともに岩石中含まれているシリコンだけを取り出して、純度を高めなければなりません(この処理は「精製」と呼ばれます)。太陽光発電モジュールを製造するための原料シリコンは、99.9999%以上の純度が必要だといわれています(小数点以下4桁。この純度のシリコンは「ソーラー・グレード・シリコン」と呼ばれます)。ちなみに、コンピュータの半導体などのチップにもシリコンが使われていますが、チップに使う場合のシリコンの純度はさらに高くて、99.999999999%以上といわれます(小数点以下9桁。こちらは「半導体グレード・シリコン」と呼ばれます)。このように、ソーラー・グレード・シリコンは、半導体グレード・シリコンよりも純度が低くてもよいので、コンピュータ用チップの製造工程で出たスクラップ(端材)などを流用する場合もあります。
原料シリコンは次のようなものです。表面が光を反射して白っぽく見えますが、光を反射しないところを見ると、青黒い色をしています。
このシリコン原料を、高温にしても溶けない四角形の「るつぼ」と呼ばれる入れ物にまとめて入れます。るつぼには、おおよそ250kg前後のシリコンが入ります。
次は、原料シリコンを入れたるつぼを炉(ろ)の中に入れます。
炉に入れられたシリコンは、1400度以上の高温でいったん完全に溶かされ、その後徐々に冷やされて、結晶化された多結晶インゴットの塊になります。原料シリコンを炉に入れ、高温で溶かし、冷やして固めた多結晶インゴットが出来上がるまでには、50時間程度かかります。
るつぼの形からわかるとおり、出来上がったインゴットは、小さく切り分ける前の大きな豆腐のような形をしています。そこでまずは、ウエハ1枚分の大きさに合わせて写真のようにインゴットを切ります。
写真のインゴットの上面の四角形1つ分が、最終的なウエハのサイズになっています。次は、こうして切り分けられたインゴットを1つずつ薄くスライスします。
インゴットのスライスには、ワイヤー・ソーという機械を使います。これは、シリコンを削るためのノコギリ状のワイヤーがごく短い間隔で何本も並べられ、それを回転させながらインゴットをスライスする機械です。インゴットを薄くスライスできればできるほど、1本のインゴットから取れるウエハの数は増えます(1枚あたりのコストが下がります)から、できるだけ薄くスライスしたいところです。ただしあまり薄くしすぎると、スライスの工程でウエハが割れる場合があります。現在一般的なウエハの厚みは200μm(0.2mm)以下と非常に薄くなっていますが、さらに薄くスライスするための技術開発が続いています。
スライスされてできたウエハは、洗浄され、品質検査されて完成します。
以上でウエハは完成です。この後、ウエハはさらに処理されてセルになり、モジュールに組み込まれます。
(2010/2/9 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。