東北太平洋沖地震で発生した大津波が、福島県沿岸にあった2つの原子力発電所を直撃しました。この記事を書いている時点(2011年3月24日現在)でも、福島第一原子力発電所の原子炉や使用済み核燃料は、なお危険な状況で、現場では安全確保に向けた懸命な作業が続いています。強い放射線の影響下で作業にあたるみなさんのご無事をお祈りするとともに、一日も早い安全確保を願ってやみません。
震災で停止した原子力発電所は、東京をはじめとする関東圏に作った電気を供給していました。このため関東では、電力の供給不足が発生。不測の大規模停電を避けるために、地域ごとに計画的に時間を区切って、順番に停電させて電力消費を抑える「計画停電」が実施されています。この計画停電は、電力の受給バランスを見ながら、不足の恐れがある場合にのみ実施されるので、みんなが節電努力をして供給不足を回避できる見通しが立てば、停電は実施されません。計画停電の開始以来、関東では、一人一人の節電努力に加え、道路の街灯や駅の照明、コンビニの看板などを夜でも一部点灯させないなど、官民一体の節電努力が続いています。
好きなときに好きなだけ使えていた電気が、そうでなくなったいま、太陽光発電が従来とは違った角度から注目され始めています。これまでの太陽光発電は、どちらかというと補助金や高額な売電の恩恵による個人的な、経済的な利益を目的として検討されるものでした。しかし現在は、それだけでなく、電気を作り出して社会に貢献しようという観点から設置を検討する人が増えてきています。
電力不足という危機に直面したいま、太陽光発電にいったいどんな意義があるのかを、ここで考えてみたいと思います。
次のグラフは、1日の電力需要の変化と、それを供給する発電方法を示したものです。横軸は時間で、午前零時から、翌日の午前零時までを表しています。縦軸は電力需要の量です。グラフの上にいくほど需要が多いことを意味します。このように1日の電力需要は、午前零時から明け方の午前6時前くらいまで減少し、6時を過ぎたあたりから急激に増加して、お昼から夕方の時間帯にかけてピークを迎え、その後減少していきます。冷暖房需要の影響など、電気の消費量は季節によっても変わりますが、おおよそのカーブはこのようになっています。簡単にいえば、多くの人が起きて、生活したり働いたりする時間帯で電力消費が多く、みんなが寝静まった深夜はあまり消費されないということです。考えてみれば当たり前のことです。
1日の時間帯別電源の組み合わせ
(経済産業省資料『日本のエネルギー2008』 p.36より引用)
グラフは層状になっていて、使われる電気のどれくらいが、どんな方法で発電されているかを示しています。比較的発電単価が安く、出力の微調整に不向きな原子力発電を一定レベルでずっと発電させ続け、変動部分は火力発電(「石油」や「LNG(液化天然ガス)」など)で調節していることがわかります。今回の震災では、このグラフの「原子力(発電)」の部分がほどんど失われたわけですから、供給電力が不足するのもやむを得ません。基本的に電気は貯めておけませんから、いま使う電気はいま発電しないといけません。みんなが使おうとする電気を十分に供給できないと、大規模な停電が起こってしまう危険があるわけです。おそらく東京電力は、既存の火力発電所をフル稼働させて、原子力発電の不足分を補っているのでしょう。新聞報道などによれば、休止している火力発電所などを再稼働させるなどで、4月末くらいには計画停電をいったん止められる見通しだそうですが、エアコンによる電力需要が増える夏場には、再び電力不足が生じて計画停電が必要だといわれています。
このように現在の関東圏は、電力の供給能力が不足しているのです。それでもなるべく不足を起こさないようにして、停電を回避するには、電力需要のほうを減らすしかありません。道路の街灯を消したり、コンビニの看板を消灯したり、オフィスの空調を弱くしたりするのはこのためです。家庭に比較すれば、工場やオフィス、大型の商業施設などのほうが消費電力ははるかに大きいのですが、家庭は数が多いので、全体でみると3割程度の電気は家庭で消費されているといわれています。一軒一軒、一人一人が使う電気はわずかでも、トータルではまとまった量になっているわけです。ですから一人一人が気を付けて節電に努めることは、計画停電を回避するために非常に重要です。
節電で停電を回避しよう!
電力の使用状況や、節電の効果を目に見えるようにするために、東京電力は1時間ごとの電力の使用状況をグラフで公開し始めました。これを見ると、毎日の電力受給が綱渡りであることがよくわかります。
太陽光発電ユーザーであっても、夜は発電できませんし、たとえ昼間に自分のソーラー・パネルで電気を作っていたとしても、停電回避のためには節電努力が必要なのはほかの人と同じです。けれど太陽光発電ユーザーは、節電して余剰電力を出せば、それを電線に戻して、近所の家で使ってもらうことができます。つまり節電を超え、創電によって、さらに一歩踏み込んで停電回避のために社会貢献できるというわけです。
太陽光発電なら創電で社会に貢献できる!
太陽光発電できる電気は、全体からみればわずかですが、それでも停電回避に向けて、節電よりも一歩進んだ貢献ができることは確かです。すでに太陽光発電している人は、小さな小さな発電所として、ほかの家に電気を提供できるのです。
震災特集号に、こんな見出しを付けた週刊誌がありました。日本は重大な危機に直面しているけれども、みんなが力を合わせれば必ず道は開ける、そういう意味が込められているのでしょう。
図らずも今回の震災は、私たちの生活と電気(エネルギー)の関係について、改めて考え直す機会となりました。日本はエネルギー資源のほぼ100%を輸入に頼っており、私たちのエネルギー生活はさまざまなリスクの上に成り立っています。今回の問題は、そうしたリスクの1つが現実になったにすぎません。太陽光発電は、量はわずかでも純国産のエネルギー源です。万一の備えに、もっともっと活用できるようにしておく価値があります。そもそも太陽光発電産業は、1970年代のオイルショックのころから、30年以上をかけて日本が育ててきたものでした。ここ数年のうちに、日本はイニシアチブを失ってしまったように見えますが、いまなお世界に誇れる優れた技術があります。
今回の震災によって日本は斜陽の道を歩むのか、それとも震災をきかっけに、新しい時代に向けたエネルギー基盤を整え、関連産業を発展させるのか。私たちはいま、その岐路に立たされているような気がします。個人の経済的な利益だけでなく、一人一人の社会貢献が、次世代のエネルギー基盤を整備する原動力になる国。技術面でも、意識の面でも、日本はそれができる国だと思います。ぜひともこうした観点からも、太陽光発電を評価してみてください。
(2011/3/25 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。