太陽光発電では、自然に降り注ぐ太陽のエネルギーを電気に変換して、家の電気機器で使ったり、余りがあれば売電したりできます。
けれども太陽エネルギーを有効に活用する方法は、太陽光発電ばかりではありません。太陽のエネルギーを熱に代えて、お風呂やシャワーなどの給湯用に使えるようにする太陽熱温水器もあります。日本では、太陽光発電の陰に隠れて目立たない存在の太陽熱温水器ですが、海外に目を向けると、太陽光発電と同じどころか、むしろ太陽熱温水器のほうがはるかに普及している国もあるほどです。
実は日本でも、太陽熱温水器の設置が急速に進んだ時代(1970~80年ごろ)がありました。よく見ると、古い太陽熱温水器が屋根に載っている家を見かけることがあります。しかし原油価格が低下したり、強引な訪問販売が社会問題化したりしたことから、急速に下火になってしまったという過去があります。
こうした経緯からか、日本ではなかなか注目されなかった太陽熱温水器ですが、自然エネルギー利用に対する関心の高まりから、最近は再び注目が集まっています。環境保護促進の観点から、一部の自治体などが、太陽光発電だけでなく、太陽熱温水器の設置に対しても補助金を提供し始めたこともこの一因でしょう。
「太陽熱温水器」という名前から、太陽の熱でお湯を作るのだろうと、だいたいさっしがつきますが、いったいどんなしくみになっていて、どんな効果があるのか、細かいところはなかなかわかりません。そこで今回は、高効率で安価な住宅向け太陽熱温水器を製造販売する株式会社 寺田鉄工所の寺田社長にお願いして、太陽熱温水器の基本の基本について教えていただきました。
海外で太陽熱温水器が注目される最大の理由は何でしょうか? それは太陽のエネルギーを非常に効率よく熱エネルギーに変換して活用できることです。
ご存じのとおり、太陽光発電システムの変換効率(→用語解説)は、10~20%弱程度です。つまり、たとえばいま、降り注ぐ太陽のエネルギーが100だったとすると、ソーラー・パネルで電気に変換して利用できるエネルギーは10~20弱ということです。逆にいえば、太陽光発電では、太陽エネルギーの80%以上は電気に変換されず、活用されません。
これに対し太陽熱温水器は、太陽エネルギーの50~60%程度を熱エネルギーに代えて利用できるといわれています。つまりお湯を沸かしたり、暖房に使ったりするなら、太陽熱温水器のほうが断然太陽エネルギーを有効活用できるということです。
太陽光発電と太陽熱温水器のエネルギー変換効率
とはいえ、お風呂とか給湯って、そんなにエネルギーを使っているんでしょうか? そこで経済産業省の「2009年 エネルギー白書」(→経済産業省のページ)を調べてみると、なんと給湯は家庭のエネルギー消費の実に30%を占めていることがわかります。テレビとかパソコンとかによる電気エネルギー消費は、「照明・動力ほか」に含まれると思われるので、やはり消費割合としては一番ですが、給湯も負けず劣らず多くのエネルギーを使っています。太陽熱温水器でこの「給湯」のエネルギー消費を節約すれば、光熱費を大きく削減できる可能性があります。
世帯あたりの用途別エネルギー消費
データは経済産業省の「2009年 エネルギー白書」より
さらにもう1つ。消費者からみた太陽熱温水器の大きな特徴は、価格が安いことです。出力サイズにもよりますが、太陽光発電システムを搭載するには200万円以上のお金がかかります。これに対し太陽熱温水器は、やはり機器の種類などによって変わるものの、一般的な住宅向なら、おおよそ20~120万円程度(タンク一体型は20~50万円程度、タンク分離タイプは80~120万円程度)で設置が可能です。このため、初期費用を早期に回収することが容易です。
「太陽熱温水器もいいけど、ソーラー・パネルを屋根に載せたら、もう置く場所がないでしょう」という疑問を持っている人もいるでしょう。確かに、平均的な日本の住宅の屋根はそれほど広くありません。ソーラー・パネルだけでも、なかなか希望するだけ載せられないのに、太陽熱温水器など置ける場所がないというのはもっともな意見です。
このように、個別の事情としては、ソーラー・パネルと太陽熱温水器の併設は困難、というケースはあるでしょう。しかしだからといって「太陽光発電と太陽熱温水器は二者択一」というわけではありません。電気も給湯も家庭には不可欠な要素であり、太陽光発電と太陽熱温水器は互いを排除しあう間柄ではなく、可能であれば組み合わせて、太陽エネルギーを有効活用する存在なのです。自然エネルギー活用をますます進める必要がある将来は、太陽光発電と太陽熱温水器をいかにして有効に組み合わせるかという「ベストミックス」の時代になっていくでしょう。
将来は太陽光発電と太陽熱温水器のベストミックス
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。