それでは、ここからは太陽熱温水器の基本的なしくみについて見ていきましょう。現実に販売されている太陽熱温水器にはさまざまなバリエーションがありますが、ここでは一般的なもの、代表的なものを取り上げて説明します。また技術的に詳しい説明をするのが目的ではなく、おおまかなしくみや成り立ちを理解してもらうのが目的ですので、あまり細かい部分には触れません。
太陽熱温水器は、太陽の熱を吸収して、お湯を作り出す機器です。太陽の熱を集めて、お湯を作る部分は「集熱器」と呼ばれます。例えば次の写真は、太陽熱温水器として、日本国内で広く販売されている平板型太陽熱温水器の例です。
平板型太陽熱温水器 矢崎総業「ゆワイター ゆ太郎」
(矢崎総業の製品情報ページより転載)
手前側にある黒い板状の部分が集熱器です。平板型では、このように板状の集熱器で太陽の熱を集め、水などを接触させて熱を伝えてお湯を作ります。一般に平板型の集熱板はステンレスやアルミニウムでできています。
平板型以外としては、真空管型集熱器というのもあります。次は真空管型の集熱器を持つ太陽熱温水器の例です。
真空管型太陽熱温水器 寺田鉄工所「SUNARTH(サナース)」
(写真提供:寺田鉄工所)
写真をよく見ると、細長い円筒状の棒がいくつも並んでいることがわかります。これらが真空管型集熱器です。円筒は二重のガラス管になっていて、外側のガラスと内側のガラスの間が真空になっています(ただし完全な真空というわけではありません)。そして真空層の内側に太陽光を熱に変換するための膜があり、管の一番内側の部分に水を入れて、お湯を作ります。
真空管型集熱器の構造
二重ガラス管で真空層を作るのは、真空は熱を伝えないという特性を利用し、内部の熱を逃がさないためです。ちょうど魔法瓶のような構造になっているわけです。このため真空管式では、冬など外気温が非常に低い季節でも、お湯を使えるという利点があります。
次は水(お湯)の循環方式です。もっとも単純な方式は自然循環方式というものです。お風呂を沸かしたとき、湯船の上のほうは熱くなっているのに、湯船の底にある水は冷たいままだったという経験があるでしょう。温かいお湯は、冷たい水よりも軽い(比重が軽い)という性質があるためにこのようなことが起こります。自然循環方式では、この水とお湯の性質を使って水を循環させ、お湯を作り、タンクに貯蔵します。
下の図は、自然循環式太陽熱温水器の内部の模式図です。冷たい水を集熱器に流し込むと、比重が重いので、集熱器の下のほうに移動します。一方、集熱器によって温められたお湯は、比重が軽くなって上のほうに移動します。そして集熱器の上部にお湯をためておくタンク(貯湯タンク)があり、お湯はここに貯められます。給湯に使われるお湯はここから外部に出ていきます。このように自然循環方式では、動力ポンプなどを使わないため構造がシンプルで、安価な製品を作りやすいという特徴があります。
自然循環方式の太陽熱温水器の内部はこうなっている
自然循環方式以外では、強制循環方式というものがあります。こちらは、動力ポンプなどを使って、強制的に水(または熱を伝える熱媒)を循環させます。貯湯タンクを地上に置くタイプなどは強制循環方式が採用されています。
実際の太陽熱温水器はもっと複雑な構成のものもありますが、基本的なしくみはこれまで説明したとおりで、シンプルな構成をしています。
基本的なしくみがわかったところで、太陽熱温水器で作ったお湯の給湯方式の違いについて説明しましょう。ここでも、内部の細かなしくみより、利用者視点から見た使い勝手の違いを重視して説明します。
太陽熱温水器の話を始める前に、住宅の一般的な給湯の構成について確認しておきます。もっとも一般的なガス湯沸し器を使った給湯は次のようになっています。
住宅における一般的な給湯の構成
ガス湯沸かし器では、シャワーを出したり、バスタブにお湯を貯めたりと、お湯が必要になったときに、必要な分だけをガスでお湯をわかして使います*1。
*1:エコキュートと太陽熱温水器を組み合わせて利用可能にした製品もありますが、特殊な製品なので、ここでは一般的なガス(灯油)湯沸し器のケースだけを説明します。
一番シンプルなのは、落水式と呼ばれる給湯方式です。落水式の太陽熱温水器の構成を図にするとこうなります。
落水式太陽熱温水器
「落水式」という名前が示すとおり、この方式では、貯湯タンクから自然の引力でお湯を住宅内に供給します。動力ポンプなどは使わないためシンプルです。ただし、仕組み上、この方式では、貯湯タンクを必ず屋根の上に置かなければなりません。また水圧が弱いため、そのままではシャワーに使うのは困難です。通常は、太陽熱温水器専用の蛇口を取り付け、バスタブにためてお風呂に使います。お湯はガス湯沸かし器を通りませんので、太陽熱での湯沸しが不十分だったとしても、ガスで直接加温することはできません(もちろん、追い焚き機能のあるバスタブなら、ガスでの加温は可能です)。シンプルで安価ですが、使い勝手にやや制約があるのが落水式です。
太陽熱温水器には、水道管の水圧をそのまま生かして、いまある給湯設備をそのまま使えるようにしたものもあります。こちらは「水道直結式」と呼ばれます。水道直結式の構成は次のとおりです。
水道直結式太陽熱温水器
この方式では、水道管を分岐させて、一方を太陽熱温水器に入れます。水道圧を活かしたまま、太陽熱温水器からお湯が供給されます(水圧が不足する場合には、経路途中にポンプを入れる場合もあります)。
太陽熱温水器からやってきたお湯は、ガス湯沸かし器に入れられますが、その前に「ミキシング装置」を通ります。太陽熱温水器を利用すると、夏場などは70度近いお湯がわきますが、これをそのまま湯沸かし器に入れると、湯沸かし器が壊れてしまいます。このためミキシング装置では、一定温度以上のお湯が湯沸かし器に入らないように、お湯が熱すぎる場合には水で薄めて温度を下げます。このため天気のよい夏場などは、太陽熱温水器のタンクより多くのお湯を使えます(水でうすめて使うため)。
ミキシング装置を通ったお湯は、湯沸かし器を通してシャワーや蛇口に供給されます。このとき、ミキシング装置からのお湯が十分な温度なら、湯沸し器は加温せずにそのままお湯をシャワーなどに送ります。天気の悪い日や冬場など、太陽熱温水器からのお湯の温度が低いときは、湯沸かし器で加温します。つまり太陽熱温水器からのお湯が十分温かければ、加温のためのガスを使わずにすむということです(少し温度を下げてガスを点火させなければならない給湯器もあります)。
この方式では、シャワーも蛇口もそのままで、いままでどおりにお湯が使えます。使い勝手の面からは、太陽熱温水器の存在を意識する必要がありません。使い勝手は従来と変わらず、太陽熱でわかしたお湯の分だけガス代を節約できるわけです。
太陽熱温水器の貯湯タンクは200リットル程度が一般的なので、水の重さだけでも200kg程度になります。強度などの関係で、屋根の上に貯湯タンクを置けない場合があります。この場合は、貯湯タンクは地上に置き、集熱器だけを屋根の上に設置する強制循環方式の太陽熱温水器があります。水(または熱媒)がポンプで集熱器からタンクに循環され、お湯がタンク内に貯められます。
強制循環式太陽熱温水器
貯湯タンク以後のお湯の流れは、水道直結式と同等です。シャワーも蛇口もそのまま使え、使い勝手は変わりません。また同じく、お湯の温度が低いときには、湯沸し器で加温します。
この方式では、屋根にかかる過重負担が大幅に軽減される利点がありますが、タンクの設置スペースが必要になること、給水のためのポンプが必要になるなど機器も複雑になるため、価格が高くなるという欠点があります(ポンプを動かす電気代も必要です)。
機器の構成や設置手法、住宅への補強の有無などによって設置価格は変わりますが、太陽光発電システムと比較すると機器も安価で設置工事も比較的容易です。ここでは目安として、今回お話をうかがった寺田鉄工所さんの場合について、設置価格をご紹介しましょう。
寺田鉄工所の太陽熱温水器はすべて真空管型の集熱器で、落水タイプでもっとも安価なSUNARTH(サナース、写真前出)、水道直結型のSUNTOP(サントップ、写真以下)、貯湯タンク分離型のSOLTECH(ソルテック、写真以下)があります。
水道直結式太陽熱温水器「SUNTOP(サントップ)」(左)と貯湯タンク分離式「SOLTECH(ソルテック)」(右)
(写真提供:寺田鉄工所)
気になる設置費用ですが、機器購入と工事費用の両方で、もっとも安価な落水式の「サナース」で20~30万円程度、水道直結式「サントップ」で40万円前後、分離式の「ソルテック」で100万円程度から、とのことです*2。太陽光発電システムと比較すると、かなり安価に設置できることがわかります。
*2 これらの金額は、あくまで目安です。工事価格は施工代理店によって変わる場合があります。価格は2010年8月現在のものです。
以上、今回は駆け足で太陽熱温水器の特徴やしくみ、設置費用の目安などをご紹介しました。設置費用は安く、光熱費削減の効果も見込めそうです。次に気になるのは、実際に設置して、どれくらい光熱費(ガス代)が削減されるかですね。この点については、太陽熱温水器を設置して運用しているユーザーの訪問記事を別途準備しています。ご期待ください。
太陽光発電だけでなく、太陽エネルギー活用には太陽熱温水器もあるということ、比較的安価に設置できて効率よく太陽エネルギーを給湯に活かせることがわかりました。住宅の条件や家族構成、生活スタイルなどを考えながら、双方の「創エネ」技術をうまく生活に生かしていきたいですね。
(2010/9/2 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。