工事業者に太陽光発電システムの設置について問い合わせると、太陽光発電システムだけでなく、オール電化への切り替えをセットで勧められる場合が少なくないようです。実際に太陽光発電とオール電化と組み合わせることによるメリットはあります。ただし、設置の目的はそれぞれ異なりますし、組み合わせて工事すれば全体の工事費用は増えます。太陽光発電とオール電化をまとめて検討するのではなく、あくまで別々のものとしてメリットを検討したうえで、納得がいくなら同時に工事するようにしてください。
工事業者が「太陽光発電+オール電化」が勧めるのにはいくつかの理由があります。その事情を少しまとめてみましょう。
ここ数年の急速な普及が後押しして、太陽光発電システムの設置工事に新規参入する業者が増えています。さまざまなケースがありますが、多いパターンの1つは、もともとオール電化の工事を行っていた業者が、太陽光発電システムの設置工事にも手を広げた、というケースです。もともとオール電化の工事をやっていたわけですし、後で説明するように、太陽光発電+オール電化のメリットがありますから、こうした業者がオール電化を勧めるのは自然な流れでしょう。
工事業者から見て、太陽光発電システムの設置工事だけで大きな利益を得るのは困難です。理由の1つは、国の設置時補助金がいわゆる「キャップ制」(→用語解説)と呼ばれる方式で、太陽光発電モジュール1kWあたりの最大の工事費を設定し、この上限を超えると補助金の支給対象からはずれるようにしているからです(原稿執筆時点の2010年2月現在では1kWあたり70万円)。これは、高額な工事などを実質的に制限して、安価な太陽光発電システムの普及を促そうとするものです。しかし業者からみれば、この上限以上の工事費は実質的に請求できないわけですから、仕入れるモジュールの価格次第では、わずかな利益しか確保できません。そこでオール電化の工事も同時に実施すれば、オール電化分の利益も加算できるということと、両方の工事をまとめることで、多少は工事のコストを圧縮して利益幅を増やせるとう利点があります。
ときに広告などを見ていると、「太陽光発電+オール電化でCO2排出ゼロ」というようなうたい文句を見かけることがあります。確かにオール電化にして、給湯にエコキュート、キッチン・コンロにIHクッキング・ヒーターを使い、ガスの使用をやめれば、それまでガスの燃焼によって発生していたCO2は発生されなくなります。ただし、ここだけを見て「CO2排出ゼロ」というのは正しくありません。
オール電化が全面的に依存する電気は、火力発電などで作られたものも含まれます。家ではCO2を発生しなくても、発電所で電気を作る時点でCO2が発生しています。CO2排出の観点からみると、電気とガスのどちらがクリーン(CO2排出量が少ない)かは、簡単にはわかりません。電気事業者は電気が有利だと説明し、ガス会社はガスが有利だと説明しています。双方とも根拠となるデータも紹介していますが、単純には比較できないものなので、どちらの主張が正しいのかは簡単には判断できません。専門家でも意見が割れるわけですから、消費者レベルでは、どちらともいえない微妙な問題なのだと認識しておけばよいでしょう。「太陽光発電+オール電化でCO2排出ゼロ」といううたい文句ばかりを強調して、同時工事を執拗に勧めるような業者は敬遠したほうがよいかもしれません。
オール電化住宅は、一般的にはガスを利用することが多い給湯機器やキッチン・コンロの双方を電気機器に換え、宅内からガス機器をなくして、ガス代やその基本料も節約できるようにした住宅を指します。具体的に給湯にはエコキュート(→用語解説)を、キッチン・コンロにはIHクッキングヒーター(→用語解説)を利用します。通常、オール電化住宅では、時間帯によらず消費電力に従量で料金を課金する「従量電灯」料金メニューではなく、深夜電力を安価に利用できる料金メニューに設定します(→用語解説)。細かいサービス内容や料金は電力会社によって異なりますが、従量電灯メニューでは20~25円/kWhのところ、深夜時間帯(22:00~翌朝8:00など)にかぎり10円/kWh以下で電気を使えるようなメニューです。通常、エコキュートは、安価な深夜時間帯にお湯を沸かしてタンクにためておき、電気代を節約します。ただし、深夜時間帯は安価になる代わり、昼間の時間帯は従量電灯よりも高く、30円/kWh程度になります。
深夜電力メニューを選択しているときは、昼間の時間帯の消費電力をできるだけ減らさないと、電気代が高額になります。深夜時間帯にできることは、できるだけ夜にまわしたほうがトクです。これを徹底している家庭では、洗濯や掃除も深夜帯にするといいます。
しかし、すべてを夜に回せるわけではありません。簡単な例で、深夜電力メニュー設定にしていて、太陽光発電がある場合とない場合を比較してみましょう。まず、太陽光発電がない場合(図の上側)、昼間に電気を使うと、30円/kWh程度の高額な電気代がかかります。
ここで太陽光発電があったらどうなるでしょうか。太陽光発電で作られた電気があるなら、高い電気を買わなくても、そちらの電気が利用できます。消費分に見合う十分な発電がなかったとしても、買う電気の量を発電分だけ減らせます。
このように、オール電化住宅で深夜電力メニューを設定しており、かつ昼間にも一定の電力消費がある家では、太陽光発電システムを導入することで、高額な昼間の電気を買わないですむようになり、結果として光熱費を節約できることになります。
これまでとは逆に、オール電化と太陽光発電を組み合わせた場合のデメリットについても触れておきましょう。2009年11月1日から、太陽光発電の余剰電力の売電価格が48円/kWhと、それまでの倍額になりました。48円/kWhは、深夜電力メニュー利用時の高額な昼間時間帯価格(30円程度)よりも高いという点を考慮する必要があります。つまり太陽光発電できる時間帯で、それを使わなければ余剰電力になって48円/kWhで販売できたという場面で、電気を使って余剰電力がなくなってしまったとすれば、実質的には48円/kWhの電気を使ったのと同じ結果になってしまいます。オール電化住宅でなくても、電気を使えば同じことですが、オール電化住宅では、暖房もキッチンコンロもすべて電気に頼っているわけで、このようなことが、オール電化でない場合に比較すると起こりやすいといえるでしょう。
このように、「太陽光発電システムを導入するなら、一緒にオール電化にするとトク」というよりは、「オール電化にしていて、昼間の時間帯(安価な深夜電力を使えない時間帯)もよく電気を使うなら、太陽光発電システムを導入するとトク」というべきでしょう。また逆に、せっかく太陽光発電で高く売れる余剰電力を、家庭の電化製品で消費してしまう問題についても検討してみるべきです。
もちろん、太陽光発電とオール電化を組み合わせることがいけないというのではありません。今回述べたとおり、メリットもあります。大事なことは、太陽光発電システムの導入と、オール電化導入は、それぞれ分けてメリットと負担を検討することです。
(2010/2/12 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。