2011年8月29日(月) 16時41分 公開
再生可能エネルギー(自然エネルギー)の利用拡大を図る制度として期待されている、新しい「再生可能エネルギーの固定買取価格制度」にかかる法案が、2011年8月26日に参議院本会議において可決・成立した。法案の正式名称は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「特措法」と表記)。経済産業省が公開した資料によれば、この特措法は2012年7月1日から施行される。
制度の基本部分は当初から大きくは変わらないが、国会の審議を経て、最終的にはさまざまな修正などが盛り込まれた。ここでは、加えられた修正点を踏まえながら、最終的に成立した特措法の要点についてまとめよう。
本特措法は、再生可能エネルギーから作った電気を、国が定めた単価(固定価格)で、一定の期間、電力会社が買取ることを義務付けるもの。これにより、たとえば太陽光発電所を設置する事業者は、長期に安定的な価格で発電した電気を売却できるようになり、事業の見通しが立てやすくなる。結果として、そうした再生可能エネルギーを利用する事業者が増えるという目論見だ。買取にかかる費用は、原則として電気を使う全国民(個人、事業者)が、電気の使用量に応じて負担する。
再生可能エネルギーは、火力発電など従来の発電方法と比較して発電コストが高く、単純に価格競争をするとビジネスとして成り立たない。また再生可能エネルギーは、自然現象まかせで発電量が大きく変わってしまうため扱いにくいという問題もある。このままでは利用は進まないので、発電事業者が採算を取れる程度の価格を設定し、一定期間、電力会社が買い取る枠組みを国が用意することで、再生可能エネルギーによる発電ビジネスを推進、拡大しようというのが、この法律の目的だ。
すでに、小規模な住宅用太陽光発電システムで発電した電気に対しては、固定価格(2011年度は1kWhあたり42円)で10年間の買取を行う「太陽光発電の余剰電力買取制度」が実施されている。この際の買取に必要な費用は、電気の使用量に応じて全国民が負担している。電力会社から毎月お手元に届く「電気ご使用量のお知らせ(検針票)」を見れば、すでに「太陽光促進付加金」として課金されているはずだ。
特措法は、この住宅用太陽光だけでなく、買取対象を事業者などが行う大規模な太陽光発電や風力、水力(中小規模)、地熱、バイオマスにも拡大しようというものである。
住宅向け太陽光発電について、現在はソーラー・パネルで発電した電気をまずは自宅で使い、余った場合にだけ売電できる「余剰電力の買取」となっている。この住宅向けについても、全量買取を適用するべきとの議論もあったが、最終的には、これまでの余剰電力の買取制度が継続されることとなった。来年度(2012年度)以降の買取価格などは今後決められるが、制度上は従来のものが引き継がれるので、混乱は生じないですむだろう。
住宅用太陽光発電を除く再生可能エネルギー利用の発電設備、具体的には、太陽光、風力(小型を含む)、水力(3万kW未満の中小規模発電)、地熱、バイオマス(紙パルプなど既存の用途に影響をおよぼすものを除く)を利用した設備で発電した電気の全量を電力会社が買い取る。ただし買取対象の設備や方法については、経済産業大臣による認定が必要で、認定にあたっては「安定的かつ効率的に再生可能エネルギー源を用いて発電を行う設備である等」の観点から評価されるとする。認定を受けられなければ、買取対象にはならない。
また法案には、「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」には、電力会社は接続を拒否できるとの例外条項も含まれている。「支障が生ずるおそれ」とは具体的に何を指すのかは不明で、電力会社の裁量で接続が制約される可能性があるため、発電事業者の懸念材料になっているようだ。
買取単価や買取期間は、再生可能エネルギー源の種別、設置形態、規模などに応じて、関係大臣(農水大臣、国交大臣、環境大臣、消費者担当大臣)が協議したうえで、新しく設置される中立的な第三者委員会「調達価格等算定委員会」での議論に基づき、経済産業大臣が決定することになった。買取価格/期間を発電事業者に有利に設定すれば、再生可能エネルギー利用は進むが国民負担は増える。逆に国民負担を小さく抑えようとすれば、十分な再生可能エネルギー利用促進が図れない。この両者の間で、どう落としどころを見つけるかという点がポイントになる。
最終的な法案では、発電の種類(太陽光、風力など)や設置の仕方、規模ごとに、買取価格や期間が細かく変わる可能性がある。また価格や期間の決定にあたって関係する大臣が多いので、具体的な価格/期間を決める際には、省庁間での綱引きが起こる恐れもあるだろう。買取単価や期間は、半年ごとに見直せることになっている。
ただし法案では、「施行後3年間は、買取価格を定めるに当たり、再生可能エネルギー電気供給者の利潤に特に配慮する」として、当初は集中的な再生可能エネルギーの利用拡大を図っていく。つまりスタートから3年は、発電事業者がきちんと利益を出せる水準の価格を設定するとうたっているのだ。
本当に再生可能エネルギー利用が進むかどうかは、今後決定される買取価格と期間の具体的な内容にかかっている。
前述したとおり、特措法による買取にかかる費用は、全国民(個人、事業者)が電気の使用量に応じて負担する。問題となるのは、電力消費が多い事業者だ。たとえば金属精錬業などは、どうしても大量の電気を使わなければ仕事にならない。買取負担によって実質的な電気料金があがれば、それだけ製造コストが上がってしまい、最終製品の価格競争力を失ってしまう危険がある。
これに対し特措法では、単位売上高(千円)あたりに電力会社から購入する電力量(kWh)が一定の値を超えると認められた事業で、実際に一定量以上の電力購入がある場合、その事業所はサーチャージ(付加金)の80%以上が減免されるとしている。「一定の値」がどうなるのか未定だが、電力消費の多い事業者に対する配慮が加えられた形だ。ただし事業者の減免を拡大すれば、それだけ減免を受けない個人や事業者の負担を増やす結果となるため、どこで線を引くかは難しい決定になるだろう。
また特措法では、東日本大震災で被害を受けた人たちへの配慮も加えられた。具体的には、震災で著しい被害を受けた施設などの電気の需要家に対しては、一定の要件を満たせば、2012年7月1日から2013年3月31日までの9カ月間はサーチャージは請求されない。
現在の住宅向け太陽光発電に対する太陽光発電促進付加金(太陽光サーチャージ)では、電力会社ごとに太陽光発電による電力の買取量などから付加金を決定している。そのため2011年度の太陽光サーチャージは、北海道電力の1銭/kWhから九州電力の7銭/kWhまで電力会社ごとに大きな差が生じている。
特措法が施行されると、地域によって再生可能エネルギーの導入量や電力需要の規模などが異なることから、地域で負担のばらつきが大きくなる可能性が高い。現行の太陽光発電促進付加金のように電力会社ごとに付加金を決定する仕組みを導入すると、再生可能エネルギーの活用が進んだ地域ほど負担が増えることになり、不公平感が広がることになる。そこで特措法においては、費用負担調整機関を設置し、負担のばらつきを調整することにしている。つまりサーチャージの単価は、全国一律となる。
今回の特措法では、さまざまな立場からの意見が複雑に盛り込まれており、素直に再生可能エネルギーの利用拡大につながるかどうかは非常に見通しにくくなっている。特措法が実態的な効果をあげるかどうかは、今後決定される買取単価と買取期間、そのほかの条件次第で決まるだろう。
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。