光(ひかり)博士:
本業は太陽光発電システムの研究だが、世の中に太陽光発電を普及させるために、初心者を対象とした太陽光発電の教室を開いている。
緑(みどり)ソーラー(ソーラーママ):
一男一女を持つ専業主婦。クリーンで家計も助かると聞き、太陽光発電に興味津々。わからないことだらけなので、光博士の教室に勉強しにやってきた。
太陽光発電の普及を促すために、2009年11月1日から始まった余剰電力の高額買い取り制度。従来の24円/kWhから48円/kWhと、売電価格が2倍になりました。補助金に加えて、この余剰電力買い取り策は、住宅向け太陽光発電システムの急速な普及に一役買っています。しかしこの際の買取にかかる費用は、電気の使用量に応じて、電気料金に少しずつ上乗せされてすべての国民が支払います。太陽光発電システムがある人も、ない人も、全員が負担するということです。これを聞いたソーラーさん、どういうことかと博士のもとに駆け込んできました。
はっ、博士! た、たいへんなことを聞いちゃいました! 世の中はどうなってるんですか!
こりゃまた血相を変えてどうした、ソーラーさん!
太陽光発電で作った電気の買い取りにかかる費用を、太陽光発電していない人が払わされるそうじゃないですか! こっちはスーパーの特売で10円、20円を切りつめる毎日だっていうのに、どうして裕福な人をこんな私が助けなくちゃならないんですか!
まあまあ、ソーラーさんおちついて。かなり誤解があるようじゃから、順序だてて説明しよう。まずはこの水でも飲んで落ち着いて。
家のローンに自動車ローン、子供の教育費だって増える一方、異常気象で野菜は高いし、まったく政治家とか役人ってのは何を考えて、ウググ、ゲホッ!
ほらほら、短気は損気じゃぞ、ソーラーさん。
はー、ゴクゴク。ふー。
やっと落ち着いたようじゃな。それじゃあ説明を始めよう。
何はともあれ、「太陽光サーチャージ」が何かというところから始めよう。
だからそれなら、太陽光発電の余剰電力を高く買い取って普及を進めるために、太陽光発電していない私たちが余計なお金を払うってことなんですってば!
じゃから興奮するでない! ソーラーさんはだいぶ誤解しておるぞ。
えっ? だってインターネットの掲示板じゃ「金持ち優遇策か!」ってみんな怒っていましたよ。
そんなことじゃろうと思った。みんなの気持ちはわからんでもないが、簡単に不公平ともいえんぞ。いいからまずは、太陽光サーチャージが何なのか、しっかり理解するのじゃ!
わかりました、博士!
よろしい。さて、「太陽光サーチャージ」じゃが、「サーチャージ」というのは知っているかな?
ええと、確か海外旅行に出かけるときに追加で取られるお金がサーチャージとか呼ばれていましたよね……。
それは「燃油サーチャージ」じゃな。ちょっと前に原油価格が高騰したときに、だいぶニュースになったからのう。
ええ。せっかくの安いパック旅行なのに、追加のサーチャージが高いから困るって海外旅行好きの友だちがいっていました。
そうじゃな。サーチャージ(surcharge)は「追加料金」という意味で、燃油サーチャージは、原油価格が高騰して、航空会社が燃料費の上昇を負担できなくなったときに、その一部を乗客に負担してもらうものじゃ。
なーるほど。じゃあ「太陽光サーチャージ」は、太陽光発電を普及させるための追加料金ってことになりますか。
簡単にいえばそういうことじゃな。ちなみに「太陽光サーチャージ」というのは通称で、正式には「太陽光発電促進付加金」という。まあ本質的なことではないし、漢字ばかりじゃ堅苦しいから、ここでは「太陽光サーチャージ」と呼ぶことにするぞ。
わかりました。
太陽光サーチャージのしくみをまとめると、次のような感じになる。
いくつか大きなポイントがあるから、図を見ながら説明していくぞ。まず、太陽光サーチャージは、電気の使用量に応じて、国民全体から薄く広く追加料金(サーチャージ)を徴収して、集めたお金を余剰電力の買取費用にあてるんじゃ。
ほら、みんなで太陽光発電している人にお金を渡すんじゃないですか。
ま・ち・な・さ・い。まずポイントの1つは、負担するのは個人も企業も含めた国民全員ということじゃ。企業は規模や業種などによって金額は大きく変わるが、標準的な家庭では、追加料金はひと月あたり10円~100円程度とされておる。使用量に応じた追加料金だから、電気をたくさん使う家庭ほど、多くを支払うことになるんじゃな。
ひと月100円かぁ…。まあ、払えない額じゃないけど…。でも、工場なんかで電気をたくさん使うところはかなりの金額になるんじゃないですか?
そうじゃな。いまは不況で企業も大変じゃからなぁ。確かに、太陽光サーチャージは一部の企業にとって、大きな負担になるのではないかという議論はある。
私の叔父も町工場を経営しているんですけど、最近は仕事が減って大変だっていってました…。
うむ。その話はさておき、注目してほしいのは、太陽光サーチャージを払うのは太陽光発電していない人ばかりじゃなくて、太陽光発電している人も払うということじゃ。
あらっ? 本当だ。でもどうして?
「国民全員」なんじゃから、当然太陽光発電ユーザーだって入るぞ。太陽光発電している人だって、天気が悪くて発電量が少なければ電気を買う必要があるし、夜はまったく発電できんのじゃから電気を買わにゃならん。太陽光発電している分、していない人よりは少ないじゃろうが、電気の使用量に応じて、太陽光発電している人も太陽光サーチャージを払う必要があるんじゃ。じゃから「太陽光発電をしていない人が、している人を一方的に助ける」というのは間違いじゃ。
うーん、そうだったんですか…。
そもそも、太陽光サーチャージなんてどうして必要なんですか? ずっとあるのかどうかわかりませんけど、いまは太陽光発電システムを設置するときに、国などから補助金が出るじゃないですか。
うむ、そうじゃな。それらの補助金だって税金から出ているわけじゃから、最終的にはわしら消費者が払っていることになる。補助金もあげて、さらに買取費用も助ける、そんな必要があるのか、ということじゃな。
そうですよ。太陽光サーチャージは太陽光発電する人も払うって話がありましたけど、彼らはそのお金で余剰電力を買ってもらえるわけだから、ある意味払ったお金が戻ってくるようなもんじゃないですか。それに比べたら、太陽光発電していない人は払うばっかりで、何もいいことがありません。やっぱり不公平じゃないんですか?
確かに、さっきの図だけ見るとそういうことになってしまうのう。その疑問に答えるには、もっともっと広い観点で太陽光発電を考えにゃいかんのじゃ。
広い観点?
そう。いまみんなが使っている電気の多くは、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やして発電しておるのは知っておるかな?
もちろん知ってますよ。
そうか。じゃあ、それらのほとんどを輸入に頼っているのも知っておるな。
ええ、知っています。日本は資源が少ない国なんでしょ?
ある調査によれば、日本のエネルギー自給率はたったの4%しかないそうじゃ。*1
よ、4パーセント!
そうじゃ。つまり、実に96%は海外からの輸入に頼っているというわけじゃな。
*1:エネルギー白書2009(経済産業省)より。
それじゃあ、資源の輸出国が意地悪して、日本に売ってくれなくなったらどうなっちゃうんですか?
そんなことになったら、わしらは文明的な生活ができなくなるじゃろうな。そういうことにならないように、いろいろな人が努力しておる。
電気もガスも、これまでずっと、使いたいだけ使えてきましたもんね。電気料金とかガス料金も、そこそこ安定していたと思うし……。
そうじゃな。じゃが資源の価格は一定というわけではない。需要と供給のバランスなどで、価格は変動するものじゃ。ほれ、数年前の2008年くらいに、原油価格が急騰して大問題になったことがあったじゃろう。
それなら覚えてますよ。ガソリンがすごく高くなって、あ、そうそう、クリーニング代が値上がりしたのもあのときだったと思います。
そう。その後リーマンショックで景気が落ち込んで需要が減少したりして値下がりしたんじゃが、石炭にしろ石油にしろ、天然ガスにしろ、何かが起こると値段が大きく変わって、その影響が私たちの生活にも及ぶということじゃな。
しかも96%も海外依存しているんじゃ、不安ですね。
そのとおり。いまでこそ資源価格は落ち着いておるが、化石燃料は枯渇の問題がささやかれるなかで、中国やインドなどの新興国で資源エネルギーの需要が急速に高まっておるから、将来的には値上がりする方向じゃろうな。しかも……。
しかも、何ですか?
化石燃料を燃やすとCO2(二酸化炭素)が発生するんじゃが、これが地球温暖化を進めるとして問題になっておる。
そうですよ。野菜が高いのも、地球温暖化の異常気象のせいなんでしょ?
CO2と地球温暖化、それがもたらす異常気象の関係などは単純ではないから、ここでは説明しない。じゃがいま世界は、CO2排出を減らすために、CO2を発生させることに対してお金がかかるようにしようとしておるんじゃ。
あらまあ。
つまり、これまでのように、いつまでも比較的安い値段で、エネルギーを使い続けられるかどうかはわからんということじゃ。
そんなぁ。いまだって生活するのに精いっぱいなのに、これ以上電気代やガス代が値上がりしたら困ります!
じゃからこそ、エネルギーの自給率を上げていく必要がある。この点、太陽光発電は、住宅などで電気を作るわけじゃから、純国産エネルギー源なんじゃ。
なるほど。太陽光発電でエネルギーをすべてまかなえば、海外に依存しなくてすみますね!
太陽光発電で作れる電気はわずかじゃから、これで全部をカバーするというわけには到底いかんのじゃが、それでも住宅の屋根に4kW程度のパネルを乗せて、節電に努めれば、生活に必要な量の電気を太陽光発電だけで作り出すことも可能じゃ。太陽光発電をする住宅が増えれば、ほんのわずかじゃが、エネルギー自給率をアップさせることができるぞ。
すてき!
エネルギー自給率が上がれば、資源エネルギーの海外依存のリスクを減らせる。これは国民全員の利益になるんじゃ。わかるかな?
そうかぁ、万一資源が高騰しても、国産のエネルギーがあれば、影響を小さくできるってわけですね。
そのとおりじゃ!
(2010/11/12 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。