太陽光発電システムを設置する前には、工事業者にしっかりと現地調査してもらう必要があります。たとえば古い家屋では、屋根の上に太陽光発電パネルのような重量物(太陽光発電モジュールは数百kg程度あります)を載せることが難しかいかもしれません。また屋根に発電に適した十分なスペースがない、背の高い障害物などがあって日陰ができる、十分な日照が得られないなど、設置に不都合があったり、適さない場合があったりします。悪条件にもかかわらず無理に設置しようとすると、高額な補修費用がかかったり、十分な発電ができなかったりと、期待どおりのメリットが得られない恐れがあります。素人でも勉強すればある程度見当はつくようになりますが、やはり正式な工事契約をする前には、専門の工事業者による現地調査が欠かせません。
ところでこの「現地調査」とはどのようなものなのでしょうか? 調査にあたって何か準備が必要でしょうか? 今回は、太陽光発電システムの設置工事会社である(株)スズキ太陽技術に協力をいただき、太陽光発電システム設置前の現地調査とはどんなものか、業者は何を調べるのか、調査を受ける側として準備しておくとよいこと、現地調査での対応から業者のよしあしを判断するポイントなどをまとめます。
現地調査で、設置工事業者は何をチェックするのでしょうか? 個々のケースによって多少の違いはありますが、基本的には次のようなポイントをチェックするということです。
当然ながら、太陽光が当たらない場所に発電パネルを置いても発電できません。常時日影になるような場所は論外として、一見すると問題ない場所のように見えても、日が傾いたり、冬場になったりすると、周囲の樹木や電柱、アンテナ、設置済みの太陽熱温水器などの障害物の影がパネルに入ってしまうことがあります。程度の問題ではありますが、一部分でも影が入ると、発電量が大きく低下してしまう場合があるので、できるだけ影が入らないようにパネルを配置しなければなりません。よほど日照条件が悪い場合は、設置をお断りする場合もあるそうです。
常時作成するわけではありませんが、影の出方が問題になるような場合には、「日影図(にちえいず)」という図面を作成する場合もあります。この日影図では、時間ごとに日影の出方を図にします。
屋根の形や方角などから、発電パネルの設置に適した屋根面と大きさを調べます。
前の条件と関連しますが、太陽光発電パネルの設置に最も適しているのは、真南に向けて、水平から30度の角度でパネルを設置した場合です。真南と比較すると、東面や西面では15%ほどパネルが受ける日射量が減りますが、設置は可能とされます。一方、真北面の設置では、真南面から比べて40%近く日射量が減ってしまうので、パネル設置には適しません。たとえば以下は、方角によってパネルが受ける日射量にどれくらい差が出るのか、真南を100%として差をグラフにしたものです(パネルはいずれも水平から30度の角度で設置した場合)。
グラフからわかるとおり、南東や南西なら5%程度、真東や真西で16%程度の減少ですが、これが真北になると37%も少なくなってしまいます。真北向きにパネルを置いても、十分な発電は期待できません。
さらに、最近の建て売り住宅などでは、デザイン的な理由から入り組んだ屋根になっていたり、屋根に天窓や煙突形の飾りが付いていたりする場合があります。このような屋根では、たとえ南に面していても、小さなパネルしか置けず、また太陽の位置によって、屋根同士の段差などにより影が出て、設置に適さない面積が増えたりします。
また屋根に天窓がある場合、ここからの採光を維持するには、当然ながら天窓を避けてパネルを配置しなければなりません。設置できるパネルの数や、パネルの種類などが制限される場合があります。
このように、家の方角や屋根の形状、周囲の障害物の状況などから、パネル設置に適した面がどれくらいあるか。どのようなサイズのパネルを何枚くらい設置できるかを調査します。
新築なら問題ありませんが、既築の住宅に太陽光発電パネルを追加する場合には、重量物に屋根が耐えられるかどうかを調査する必要があります。パネルの種類や搭載する枚数にもよりますが、一般に太陽光発電パネルの重さは、300~400kg程度あります。70kgの大人であれば、4~6人が常に屋根に乗っていることになるわけですね。屋根を支えている構造部分に傷みがあって弱くなっていないかなどを調査します。
発電パネルの固定方法は、屋根に使われている材料によって変わってきます。日本の伝統的な屋根材としては瓦がありますが、最近ではスレートと呼ばれる薄いマット状の材料を敷き詰めたものなどが増えています。ひとくちに瓦やスレートといっても、さらに細かく材質などが変わってきます。発電パネルを屋根に固定する際には、場合によってこうした屋根材に穴を開けたり、固定用に特別に作られた瓦を使ったりします。このように屋根材によって工法が異なりますし、部材も変わってくるので、屋根にどのような材料が使われているかをあらかじめ調査する必要があります。
また築後年数が経っている既築住宅では、屋根の劣化についても調べる必要があります。屋根は強い日射や雨、風雪に1年中さらされています。高温になったり、低温になったり、高湿度や乾燥にさらされたりと、年数が経てばそれに従って劣化が進みます。パネルを載せてしまうと、その下になる屋根材は交換できなくなりますから、場合によってはパネルを載せる前に必要に応じて塗装したり、補修したりします。特に、発電パネルの固定位置は入念に確認が必要です。傷みがひどいときには、パネルを設置する以前に、部分的に補強したり、場合によっては屋根全体のふき替えが必要になったりする場合もあります。
特に築年数の進んだ住宅に載せる場合、屋根だけでなく、家屋全体が重量物の設置に耐えられるかを確かめる必要があります。必要であれば補強工事を行ったり、最悪の場合は設置を断念してもらったりします。
パネルの設置工事が雨漏りの原因になる事故が増えていると聞きますが、実際にはパネルの設置前から雨漏りは起こっていたが、家の中から気付くほどではなかっただけ、ということもあるそうです。こうしたトラブルを防ぐためにも、屋根裏を確認して、雨漏りがすでに発生していないか(雨漏りによるシミなどがないかどうか)を確認します。必要なら、パネルの設置工事と同時に雨漏り対策の工事も行う必要が出てきます。
一部の製品を除き、通常パワーコンディショナ(→用語解説)は屋内に設置します。配線を簡単にするには、既存のブレーカー・ボックスの近くに設置するのが望ましいのですが、設置場所を確保できないときには、別の場所を探す必要があります。パワーコンディショナの設置場所によって、配線方法などが変わってきます。
また工事では、すでに屋外に設置されている電気料メーター(買電計)のそばに余剰電力計を設置し、これらを宅内のパワーコンディショナと電線で接続する必要があります。また場合によって、さらに総発電電力計(→用語解説)の設置が必要になります。メーターをどこに設置するか、配線はどうなるかをあらかじめ確かめる必要があります。一般的には次のような構成になります。
なだらかな傾斜の屋根であれば、はしごをかけて作業員が登れば作業できますが、傾斜が急な場合には、足場の設置などの安全対策が必要になる場合があります。足場は必要か、必要だとして設置スペースが確保できるかなどを確認します。足場が必要な場合、足場の設置と撤収に追加の作業が必要になるなど、費用も余計にかかります。そのほか、発電パネルの搬入やそのほかの作業スペースを確保できるかなどを調査します。
以上の現地調査の結果から、業者は見積もりを作成します。具体的には、屋根の形状や日照条件などに応じて、どの面にどれくらいの設置スペースがあるか、どのメーカーの、どのサイズのパネルを何枚、どのようにレイアウトできるか、などを検討します。使用するパネルとレイアウトが決まると、発電シミュレーションができるようになりますから、設置条件(屋根の形状や方角など)や使用するパネル、設置するパネルの出力、期待される節電効果などから、年間の発電予測、電気料金の予測(買電/売電)などを行います。発電シミュレーションを行うと、電気料金の低減や売電効果などにより、設置費用を何年程度で回収できるか計算できます。これらの結果を加えて業者は見積書を提出します。以下は見積書の例です。
これまで、現地調査で業者が何を調べるのかをまとめました。調査を受ける消費者側としては、基本的には業者の仕事ぶりを眺めることになるのですが、調査のときに準備しておくとよいことや、後日のトラブルを避けるために確認しておいたほうがよいこと、しっかりした業者なのかどうかを判断するうえで注意しておくとよいことなどがあります。次は消費者視点から、これらについて説明していきましょう。
説明したとおり、現地調査では、屋根裏を確認したり、室内のブレーカー・ボックスの位置を確認したりするために、部屋の中に入ります。
作業員はブレーカー・ボックスの現在の位置を確認し、パワーコンディショナを設置できそうな場所や、配線をどうするかなどを確認します。まずは室内のブレーカー・ボックスの位置を自分で確認して、周囲を掃除しておきましょう。住宅の作りによりますが、ブレーカー・ボックスは浴室の脱衣所などに設置されていることが多いようです。つまりこの場合、作業員が浴室や脱衣所に立ち入ることになります。洗濯物など、見せたくないものや邪魔になりそうなものは、あらかじめどこか別のところに移動しておきましょう。
屋根の構造や強度、雨漏りの有無の確認などのために、作業員が屋根裏に上がることもあります。普通の生活では屋根裏など上がることはあまりないと思いますが、通常住宅には、屋根裏に上がるための点検口がどこかに用意されています。点検口は押し入れの天井部分であることが多いようです。ですから現地調査では、屋根裏を確認するために、作業員が押し入れから屋根裏に上がることになります。当日に慌てないためにも、屋根裏に上がるための点検口がどこにあるのか、あらかじめ確認しておき、それが押し入れの天井なら、押し入れの中身をどこかに移動しておきましょう。
住宅の登記書類などとともに、住宅の設計図面などが保管されているときには、それを1部コピーしておき、現地調査にきた作業員に渡してあげましょう。設計図面があると、家の中を詳しく調査したり、詳細に採寸したりしなくてすむため、調査がスムースに進みますし、プライバシーの確保にもつながります。また、パネルの配置や配線の正確な設計にも役立ちます。必須というわけではありませんが、手許に図面がないかあらかじめ確認しましょう。
現地調査の結果をふまえて、工事内容と料金の見積書や、発電シミュレーションが作成されます。消費者としていちばん気になるのは、太陽光発電システムを設置して本当に得なのか? 毎月の電気料金はどう変わるのか? 何年くらいで元をとれるのかということでしょう。これを知るには、太陽光発電を始める前の電気料金と比較しなければなりません。電気料金は季節変動がありますから、できれば過去1年分の電気料金の資料を用意しておいて、業者に教えると、年間シミュレーション結果にそれを反映してくれます。こうすれば、設置前後で電気代がどうなるか、差が正確にわかります。
また、太陽光発電システムと同時にオール電化の工事を実施する場合もあるでしょう。この場合にはオール電化を前提とした光熱費のシミュレーション結果を作成してくれますが、この際はガス料金の変化についても知る必要があるので、ガス料金の過去1年分のデータも用意しておきましょう。
これらの過去データは必須というわけではありませんが、情報があると、設置前後の比較が非常にしやすくなります。
業者によっては、特に聞かなくても、こちらの不安や知りたいことを先回りして説明してくれるかもしれません。しかし、営業畑でない工事担当者が現地調査する場合などは、話し馴れていないために、こちらから聞かないと、なかなか話を切り出してくれない場合があるかもしれません。そんなときに、この点だけは押さえておきたいというポイントをいくつかまとめておきましょう。
すでに説明したとおり、配線の都合を考えると、パワーコンディショナはすでに設置されているブレーカー・ボックスのそばに並べて設置するのがよいのですが、スペースの都合でそれが許されない場合もあります。パワーコンディショナはこぶりなエアコン程度の大きさがありますから、なるべく目立たない場所に設置したいと思うはずです。パワーコンディショナなどこに設置することになるのか、調査のときにしっかり確認しておきましょう。設置場所に希望があるなら、それを伝えましょう。
現在の電気消費量や太陽光発電による発電量などを表示するのが発電モニタです。太陽光発電システムを設置すると、節電につとめるようになり、省電力化が進むといわれますが、最も効果が大きいのは、この発電モニタによって、現在の電気の消費量が目に見えるようになることです。このため発電モニタは、できるだけ家族の全員の目に触れやすい場所に設置したいところです。無線接続でどこにでも移動できる製品もありますが、壁などに据え付けてしまう場合には、どこに設置する予定かを確認し、自身で希望する場所があるなら、それを伝えるようにしましょう。
太陽光発電システムの設置工事では、屋根のパネルや外壁に取り付けられる各種メーター(売電メーターなど)、屋内のブレーカー・ボックス、パワーコンデョショナなどを電線で接続する必要があります。屋外にせよ、屋内にせよ、電線はできるだけ眼に触れないようにしたいものです。特に屋内配線が露出してしまうのか、壁の内側や床下などを通して露出しないですむのかを確認しましょう。屋外については、多少の露出はやむを得ないところですが、部材を工夫することで、配線を隠すことが可能な場合があります。追加部材の料金がかかる場合もありますが、いったん工事したら何十年も使うものですし、多少なら追加料金を払ってでも、できるだけ見栄えのいい工事をお願いしたいところです。配線を隠すために、さらに工夫の余地がないかなどを確認しましょう。
高いお金を払って太陽光発電システムを設置する消費者として、満足のいく工事をしてもらうために注意すべき点はいろいろありますが、しょせんは素人であって、枝葉末節に至るまで工事を指示したりできませんから、最後は業者を信じて工事してもらうしかありません。ですから、信頼できる業者かどうかを見極めるのが非常に大事です。信頼できる業者の見分け方については別稿(→関連記事)で詳しく説明していますが、ここでは、現地調査のときに注意すべきポイントをまとめておきましょう。
口ベタな工事担当者もいるでしょうが、たとえ流ちょうでなかったとしても、こちらが知りたいことをていねいに、わかりやすく説明してくれないと困ります。面倒くさそうだったり、専門用語などを使って、こちらが理解できない話でけむに巻こうとしたりする業者は信用できません。
業者によっては、屋根に上がらずに、地上などから屋根を眺めて調査を終えてしまう場合もあるそうです。新築ならそれでよい場合があるかもしれませんが、既築住宅に設置する場合は、屋根の傷みなども詳しくチェックする必要がありますから、屋根に登らないわけにはいきません。このあたりの手を抜いて、見込みで調査を終えているような場合は注意が必要です。
こちらも既築住宅に設置する場合ですが、太陽光発電システムを設置する以前から雨漏りなどの兆候がないかどうか、屋根裏に入って確認する必要があります。この作業を省略して、見込みだけで雨漏りなどないと断定する業者はあまり信用できません。
今回説明したように現地調査は、業者にとっても、調査される消費者の側にとっても、手間と時間のかかる作業です。しかししっかりした工事をしてもらうために、また正確な工事見積もり金額を算出してもらうために、必要不可欠の作業でもあります。今回の説明で、現地調査がどのようなものか、おわかりいただけたと思います。ぜひとも契約に進む前には、しっかりとした現地調査をしてもらってください。
今回の記事では、(株)スズキ太陽技術 代表取締役 鈴木竜宏さんにお話をうかがいました。
スズキ太陽技術は、屋根の施工経験を豊富に持つ太陽光発電システム設置工事業者です。愛知県安城市を拠点に、安心の技術と料金で太陽光発電システムの設置工事を行っています。代表の鈴木竜宏さんは、設置工事の現場に出て自身も作業するかたわら、太陽光発電システムの施工に関する数々の著作も発表しています。
株式会社 スズキ太陽技術
本社:愛知県安城市大東町8-4
http://www.sst-solar.co.jp/index.html
(2010/4/6 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。