太陽生活 > 特集:太陽光発電のその先へ。どうなるわたしたちの未来のくらし(2/2)

太陽光発電のその先へ。どうなるわたしたちの未来のくらし

前ページからの続き)

そしてバッテリのある未来の生活

そんな微弱なエネルギーを作ったところで、焼け石に水じゃないんでしょうか?
古川さん
ひとつひとつは微弱ですが、ちりも積もれば山で、私たちの調査では、微弱エネルギーも真面目に集めれば、家庭の電力消費の10%くらいはまかなえそうだということがわかってきました。大切なことは、楽しみながら微弱エネルギーを作って貯めることです。まとまった分量にするのは大変なわけですが、そうであればこそ、作ったエネルギーを大切にしようという気持ちが生まれるのです。
微弱な電気を使うには、一時的に貯める場所が必要ですね?
古川さん
そうです。微弱な電気を作っても、そのままでは使えません。このため、エアロバイクや自転車のカゴに取り付けた小さなバッテリに、作った微弱な電気を貯めておきます。未来の生活に向けた第2のカギは、バッテリを家の中に置いて、太陽光発電や風力発電など、できるだけ自然から作ったエネルギーだけで生活できるようにすることです。自分で作る微弱エネルギーもそうですし、太陽光発電や風力発電もそうですが、作り出せる自然のエネルギーの量は天気まかせで気まぐれなものです。これを活かすには、それを貯めておくバッテリが必要です。
家にバッテリを置けばいいのですか。比較的簡単そうです。
古川さん
いえいえ、生活基盤を支えられる容量のバッテリを家に置くというのはそう簡単じゃありません。まずは値段の問題。私たちの調査では、住宅で必要な電気を十分にまかなえる容量となると、5kWhから10kWh程度のバッテリが必要になるのですが、ノートパソコンなどでも広く使われているリチウムイオン・バッテリを利用するとなると、現時点では数百万円くらいかかってしまいます。
数百万円! それはとても広く普及できませんね。
古川さん
まったくです。広く普及するには、もっともっとバッテリは安くならないといけません。
何か秘策はあるんでしょうか?
古川さん
秘策というわけではありませんが、私たちは電気自動車用のバッテリに注目して、それをそのまま使うことを考えています。これから電気自動車が普及するのは間違いありません。電気自動車が普及して、バッテリが量産されれば、コストは大幅に下がるはずです。あるいは、自動車用に使っていたバッテリのお下がりを住宅用に活用することもできるでしょう。自動車用のバッテリというのは、衝突を前提に安全性が設計されていますから、住宅向けとしては安全性も申し分ありません。
自動車用バッテリをそのまま使う。透明のボックスの中に入っている黒いものの中に自動車用バッテリが入っている。

自動車用バッテリをそのまま使う。透明のボックスの中に入っている黒いものの中に自動車用バッテリが入っている。

エコラボのバッテリ・ルーム。両脇にあるのが自動車用を利用したバッテリ。中央はバッテリを使うための電気回路。電気回路の部分は小さくできるが、バッテリ自体を小さくするのはほぼ限界なのだとか。

エコラボのバッテリ・ルーム。両脇にあるのが自動車用を利用したバッテリ。中央はバッテリを使うための電気回路。電気回路の部分は小さくできるが、バッテリ自体を小さくするのはほぼ限界なのだとか。

コスト以外に問題点はありますか?
古川さん
設置スペースの問題も多少はあるでしょうね。一般的な住宅向けには10kWh程度が必要と説明しましたが、10kWh分のバッテリとなると、ちょっとしたクローゼットくらいのスペースが必要になるでしょう。まったく置けない大きさではないと思いますし、10kWhというのも必須というわけではありませんから、条件に応じて容量を少し減らしてもいいと思います。
バッテリが家にあると、生活はどう変わるんでしょう?
古川さん
現在の住宅は、電力会社から電気を買うことが主で、太陽光発電システムがあったとしても、そこでの発電はあくまでも従の位置づけですね。現代の生活では電気は常に必要ですが、貯める方法がないので、どうしても、いつでも使える電力会社からの供給が主になってしまうわけです。これに対して、家の中に10kWh程度のバッテリがあれば、1日分の必要な電気をほぼバッテリからだけで満たせるようになります。もちろん、天気が悪くて十分に太陽光発電できない場合もありますから、電力会社から電気を買う必要はあるのですが、あくまで主はバッテリで、電力会社の電力をバックアップ電源として位置づけることも可能でしょう。
太陽光発電などで、ほとんど電気を自給自足できるようにするわけですね。
古川さん
そうですね。またそこから発展させて、1つの住宅がバッテリを備えて自給自足するだけでなく、地域のコミュニティでバッテリを共有するのもおもしろいと思って研究を進めています。
地域でバッテリを共有するのですか?
古川さん
ええ。たとえば水など、昔は生活に必要な重要な資源を地域のコミュニティで共有していました。それと同じように、バッテリを地域で共有したらどうかというアイデアです。エネルギー・シェアという考え方です。共有バッテリをうまく使えば、各住宅が設置するバッテリの容量を下げて、コストダウンできる可能性がありますし、それで地域の自然エネルギー活用が進んで、おまけに地域コミュニティが復活して生活が豊かになるという目論見です。
ところで根本的な疑問なんですが、現在は余剰電力の売電価格が高いので、バッテリに貯めるより、どんどん売電したほうが得なのではないですか?
古川さん
現状の政策から見れば、確かにそのとおりですね。ただ、電力系統に逆潮流(→用語解説)できる電気には量的な限界があります。実際、太陽光発電システムの設置密度が高いところでは、電圧上昇が起こって売電がうまくできないケースも増えているようです(→関連記事)。現在は太陽光発電普及の過渡期で、利点がわかりやすい売電に重きを置いた政策になっていますが、将来的には、自分で作った電気は、自分で貯めて自分で使うほうが自然な時代になると思います。

「直流生活」でさらに効率よく

エコラボの中には「DCライフスペース」という、住宅の生活空間を再現した部屋がありますね。これは何でしょうか?
古川さん
自然エネルギーを無駄なく利用することを目的に、直流電気を活用した将来の住宅モデルを再現したものです。
エコラボ内にあるDCライフスペース。直流電気を生活空間で活用する住宅モデル。

エコラボ内にあるDCライフスペース。直流電気を生活空間で活用する住宅モデル。

直流電気だと、自然エネルギーを無駄なく使えるようになるんですか?
古川さん
私たちが普段使っている電気のコンセントには、交流電流が流れています。交流の電気のほうが、効率的な送電ができるというのが、電力会社が交流を使う理由です。けれども、たとえばパソコンやテレビなど、電気製品の多くは直流の電気を使っています。このため、これらの機器では、コンセントからとった交流の電気を、直流に変換してから使います。ノートパソコンなどについているACアダプタは、この変換を行っているわけです。テレビなどでは、ACアダプタが本体内に内蔵されています。
交流から直流に変換するのは無駄なんですか?
古川さん
交流から直流に変換するときに、エネルギーの一部がロスします。問題は、この変換時のロスが、多重に発生することです。太陽光を受けたソーラー・パネルは、直流電流を発生します。けれども家の中にある家電製品は、すべて交流電流を使うようにできていますから、交流に変換しなければなりません。これを担当しているのがパワー・コンディショナ(→用語解説)です。この直流→交流の変換時にも、エネルギーのロスは起こります。こうして交流に変換された電気をパソコンで使おうと思うと、先ほどお話ししたとおり、再度、ロスを出して交流→直流に変換しなければなりません。無駄が二重に起こってしまうわけです。本来、ソーラー・パネルからは直流電流が得られるのですから、直流のまま使えば、無駄なロスを回避できます。
現在の太陽光発電では、直流→交流→直流という二重の変換ロスが発生している。

現在の太陽光発電では、直流→交流→直流という二重の変換ロスが発生している。

直流の生活を再現したモデルルームが「DCライフスペース」ということですね。
古川さん
ええ。パソコンやテレビ、LED電球などは直流でまったく問題ありませんが、エアコンや冷蔵庫などを直流に対応させるにはまだ研究が必要です。実際の生活空間で直流電流を使ってみて、使い勝手の検証や、工夫の余地などを確かめるのが目的の1つです。

自然エネルギー利用にはまだまだ創造の余地がある

非常に興味深い研究ですね。これからの豊富を聞かせてください。
古川さん
太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー利用、微弱電流の蓄電を通した省エネルギー意識の醸成、住宅や地域へのバッテリの設置、直流電流の利用など、未来のエネルギー生活がどうなるか、どうすべきか、毎日のようにアイデアが出てきます。
こうした自然エネルギー利用や省エネルギー化、エネルギーの効率利用は、これから将来も豊かな生活を続けていくために不可欠の要素です。新しい技術や機器が普及するには時間がかかりますが、消費者のみなさんにも、ぜひとも興味を持っていただき、将来の生活環境に思いをはせていただきたいですね。
この東北大学 環境科学研究科には、日本にはめずらしい社会人向けの修士コースがあるそうですね。
古川さん
社会人を対象とした「環境政策技術マネジメント コース(SEMSaT)」という実践型の大学院で、エコラボでさまざまな研究を行います(→SEMSaTのホームページ)。最初にお話しした、「90歳のおばあちゃんに聞く」という方法は、通称「90歳ヒアリング」と呼んでいます。エネルギーをほとんど消費しなかった戦前の暮らしには、驚くほどわたしたちにとって環境負荷が低い新しいライフスタイルが満載なのです。実はこのコースの学生がこの方法を思いついたのです。授業の半分はeラーニングで受けられますから、東京からでも受講できます。これから環境関連分野で活躍したいと思う人は、ぜひとも検討してみてください。
このたび古川先生は、未来のライフスタイルを提案する本を出版されたとか。
古川さん
厳しい環境制約の中で、人間が我慢することなく心豊かに生きるための未来のライフスタイルについて提案する内容です。将来の自然エネルギー利用や生活に興味がある方は、ぜひとも読んでみてください。
現在の太陽光発電では、直流→交流→直流という二重の変換ロスが発生している。

『キミが大人になる頃に。』
(日刊工業新聞 発行 石田秀輝、古川柳蔵、電通 グランドデザイン・ラボラトリー共著)
出版社の書籍紹介ページ

(2010/10/22公開)

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