この記事より新しい「賃貸アパート・オーナーのための太陽光発電入門」が公開されています。以下のリンクからご参照ください。 |
日本の太陽光発電といえば、補助金政策などの方針もあり、個人住宅向けが圧倒的に多いのですが、最近は賃貸アパートやマンションでも、屋根や屋上にソーラー・パネルを設置するところを見かけるようになってきました。特に賃貸アパート向けは、国からの補助金の適用範囲が広がった2010年4月以降、注目度が高まっています。ただし、賃貸アパート向けの設置は、住宅向けとは大きく事情が異なる部分もあり、特別な注意が必要です。そこで今回は、早くから賃貸アパート向けの太陽光発電システムの設置に取り組んでおり、豊富な設置実績を持つ株式会社日本エコシステムの尾上(おのうえ)さんに、賃貸アパートでの太陽光発電の特徴や注意点などについてうかがいました。
記事タイトルからもわかるとおり、今回の記事は賃貸アパートのオーナーを中心的な読者対象としています。ただし今回対象とするのは、低層で戸数も少ない賃貸アパートで、戸数の多い高層の賃貸マンションや分譲マンションなどは対象にしません。
本記事で対象とする賃貸アパート向けの太陽光発電システムの設置とは、たとえば次のようなものです。写真は、2階建て、一棟4戸の賃貸アパートの屋根に約8kWのソーラー・パネルを設置した例です。
賃貸アパートへの太陽光発電システムの設置例
賃貸アパートは、屋根が大きいため、大出力のソーラー・パネルを搭載しやすい。ただし、住宅向けとは異なる注意点がある。
一見すると、一般的な住宅向けの設置と大して変わらないようにも思えますが、大きく事情が異なる部分もあります。太陽光発電システムを設置するとき、通常の個人住宅向けと、賃貸アパート向けでは何が異なるのでしょうか? 住宅向けと比較した賃貸アパート向け設置の利点と欠点・注意点について以下にまとめてみましょう。
利点 | 欠点・注意点 |
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賃貸アパート向け太陽光発電システム設置の利点と欠点・注意点
上の写真からもわかるとおり、賃貸アパートの屋根は個人住宅よりも大きいので、より大出力のソーラー・パネルを設置して、たくさん太陽光発電し、売電収入を得ることができます。2010年4月(2010年度の補助金制度)からは、敷地内にオーナーが住んでいなくても、国の補助金を受給できるようになりました(それまでは、オーナーが敷地内に住んでいて、オーナーの自宅で系統連系(→用語解説)する場合に限り、補助金対象になっていました)。
「屋根が大きいから大出力のパネルが置ける」などはわかりやすいですが、追加説明が必要な単語や、項目もありますね。それらについて、以下で詳しく見ていくことにしましょう。
賃貸アパートに太陽光発電システムを設置する方式には、各戸連系(かくこれんけい)と共用連系(きょうようれんけい)という2種類があります。
各戸連系とは、屋根に設置したソーラー・パネルを各部屋に接続して、入居者が太陽光発電の恩恵に浴せるようにする方式です。パワーコンディショナ(→用語解説)も各部屋に設置して、各戸がそれぞれ独立して電力会社と系統連系します。図にあるとおり、特定のパネルは特定の部屋に接続される形式になります。
各戸連系の設置方式
屋根に設置されたソーラー・パネルは、各戸に設置されたパワーコンディショナに接続され、各戸がそれぞれ電力会社と系統連系をする。賃貸アパートへの設置ではあるが、4戸がそれぞれ独立して太陽光発電、系統連系するので、構成としては通常の住宅への設置に近い。この場合、賃貸アパートの入居者が太陽光発電の恩恵を受ける。
ソーラー・パネルで発電された電気は、パネルが接続された各戸のパワーコンディショナにそれぞれ送られ、各戸で入居者が使います。そして余剰電力が出れば、売電もできます。系統連系しているのは入居者ですから、売電収入は入居者が受け取ります。賃貸アパートへの設置ではありますが、この方式は、見かけ上の構成は、通常の個人住宅に設置して、各個人が系統連系するのに近い接続形式です。
賃貸アパートの設備ですから、設置費用を負担するのはオーナーですが、太陽光発電で電気代が安くなったり、売電収入を得たりできるのは入居者で、オーナーには直接的なメリットはありません。入居者側からすれば、そんなうまい話があるのかと思ってしまいますが、最近は賃貸住宅の空き室も増えており、空き室対策を理由に、この方式を選択するオーナーさんもいるそうです。
ただしこの方式には、いくつかの難点があります。
尾上さんによれば、「ハウスメーカーの新築物件などではこの方式を採用する例もあるが、既築物件への設置では、この方式が選ばれることはほとんどありません」とのことでした。残念ながら数は少ないようですが、賃貸アパートでも入居者が太陽光発電できて、売電もできる物件もあるんだそうです。興味がある方は、対応物件を探してみてはどうでしょうか。
一方の共用連系では、ソーラー・パネルのすべてをオーナーが所有するパワーコンディショナに接続し、電力会社との系統連系はオーナー自身が行います。ソーラー・パネルで発電した電気は、ごく一部が共用設備などで使われる以外は、ほとんどを余剰電力として売電できます。売電単価は、通常の住宅向けと同じです(電力会社との契約が2010年度なら、向こう10年間は48円/kWhで売電できます)。この場合、売電収入はすべてオーナーのものになります。
共用連系の設置方式
ソーラー・パネルは、すべてオーナーが所有するパワーコンディショナに接続され、オーナー自身が電力会社と系統連系する。太陽光発電した電気は、一部共用設備(共用部分の電灯など)で使われるが、ほとんどは余剰電力として売電できる。
前で述べたとおり、アパートの屋根は大きいので、住宅向けよりも大出力のソーラー・パネルを設置できます。尾上さんによれば、平均で7~8kW程度は搭載できるそうです。戸建て住宅向けの平均が4kW程度ですから、2倍程度は搭載できることになります。太陽光発電した電気は、通常の住宅向けと同様に、電力消費があれば、まずはそちらに使われますが、賃貸アパートの場合は共用部分の電灯、ケーブルテレビやインターネットの設備程度ですから、発電した電力のほとんどが余剰電力になります。季節にもよりますが、7~9.5kWのパネルを設置すれば、月に3~4万円程度の売電収入を見込めるとのことです(2010年度の売電単価、48円/kWhの場合)。各戸連系のように各部屋への配線工事は不要ですから、各戸連系に比較すれば、特に既築物件では工事が容易です。また売電収入をオーナーが直接受け取れます。これらの理由から、賃貸アパート向けの設置のほとんどはこの方式だそうです。
(2011/2/14 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。