光熱費が削減されることが多いのは事実ですが、生活スタイルなどによってはたいして変わらなかったり、かえって高くついたりすることもあるので注意が必要です。
給湯にエコキュート(→用語解説)、キッチン・コンロにIHクッキング・ヒーター(→用語解説)を使うことで、家の中からガス機器をなくし、電気だけで生活できるようにした住宅がオール電化住宅(→用語解説)です。オール電化住宅の利点は、安価な夜間電力(通常は24円/kWh程度のところ、9円/kWh程度で使える)を利用して給湯をまかなえ、ガスの解約により基本料を含めてガス代負担がなくなるため、光熱費の削減が期待できることです。オール電化機器の購入・工事費用として数十万円がかかりますが、セールスマンなどは「光熱費の削減分で、機器の購入や工事代金はねん出できる」と説明していることが多いようです。条件さえそろっていればこれは本当ですし、設置費用以上の削減効果も十分期待できます。
次の例は、共働きの核家族で、子供も学校に出かけるために、昼間は家に誰もいなくなる家庭を想定して、オール電化住宅の電気の消費モデルをグラフにしたものです。
オール電化住宅の消費電力モデル(昼間は不在で電気をほとんど使わない家の場合)
夜間電力メニューや料金表示は東京電力の「おトクなナイト10」の例。この部分は電力会社により多少の違いがある。
グラフの縦軸は電気の消費量です。上にいくほど、たくさんの電気を使っていることになります。横軸は1日の時刻です。
まずは深夜の時間帯(午後11時~翌午前6時)ですが、この時間帯にはエコキュートが稼働して、お湯をわかして貯湯タンクにためます。このため深夜でも一定の電気を使います。
朝の出勤前・登校前の時間帯(午前6時~8時)には、朝食の準備や、洗濯のための電気を使います。その後は家に誰もいなくなるので、ほとんど電気は使いません(午前9時~午後4時)。
夕方以降の時間帯(午後4時~午後11時)は、夕食の準備や家族団らんの時間で再び電気の消費量が増えます。
オール電化住宅では、電力料金メニューを通常の従量契約からいわゆる深夜電力メニュー(→用語解説)に変更して、安価な夜間電力を使えるようにします。電力会社にもよりますが、従量契約では時間帯にかかわらず1キロワット24円程度のところが、夜間は9円少々と半分以下になります。この安価な夜間電力で給湯をまかなうため、光熱費削減につながるわけです。ただし深夜電力メニューにした場合、夜間の電気代が安くなる代わり、昼間の電気代は1キロワット30円前後と高くなります。
昼間の電気代は高くなるのですが、この例のように、昼間は不在で電気をほとんど使わない家では問題はありません。このような生活スタイルなら、オール電化のメリットは大きく、光熱費の削減効果は非常に大きいでしょう。
今度は、オール電化住宅だが、昼間もだれかが家にいる家庭を考えてみます。専業主婦の家庭や、祖父母が同居しているケースなどはこれに相当するでしょう。
オール電化住宅の消費電力モデル(昼間も在宅で電気を使う家の場合)
同じく、夜間電力メニューや料金表示は東京電力の「おトクなナイト10」の例。
家族の人数が増える場合は、エコキュートで沸かすお湯の量が増え、夕食以後の時間帯も電気の消費量が増えると考えられますが、わかりやすくするために、ここではそれらの影響はなく、先の例とは昼間の電気消費だけが変わるものとします。先ほどの例とは異なり、今度は昼間の冷暖房や、昼食準備などの電気を使います。違いがわかるように、先の「昼間は不在」の場合のグラフをグレーの折れ線で残しました。えんじ色の縦線が、「昼間は不在」の場合よりも余計に消費する電気です。
人が生活しているのですから、電気消費があるのはしかたがないとして、問題なのは、夜間電力を使う契約にしたために割高になった電気を、昼間に使うざるをえない点です。特に暑い夏場や、寒い冬場は、継続的に冷暖房に電気を使う場合が多いでしょう。状況によっては、割高になった昼間の電気代が、オール電化による電気代の削減効果を上回ってしまう場合もありえるのです。
良識あるセールスマンであれば、メリットがあるかわからない後者のようなケースでは、オール電化の販売は勧めないはずです。とはいえ世の中いろいろなセールスマンがいますので、自分でもこうしたオール電化の特徴は知っておく必要があるでしょう。
特に注意が必要なのは、当初は「核家族で共働きで昼間は不在」だったものの、その後奥様が仕事を辞めて専業主婦になった、両親と同居するようになった、というような場合です。こうなると、設置したときはオール電化のメリットが大きかったものの、家族構成が変わったとたんにそれがなくなってしまうとか、場合によってはオール電化がかえって負担になってしまうこともありえます。
オール電化への移行を検討するときは、いまだけでなく、将来の生活スタイルの変化についても検討しておく必要があるでしょう。
(2011/2/21 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。