環境保護など、太陽光発電システムを設置する理由はさまざまでしょうが、多くの人は、太陽光発電による電気代の削減や、余剰電力の売電によって得られる利益に期待して設置しています。設置費用は、たとえ補助金があったとしても、200万円前後と大金が必要なのですから、これは当然のことです。「仮に設置に200万円かかったとしても、電気代の削減と売電で毎年少しずつこれを回収して、10~15年もすれば元がとれて、そこから先はまるまる利益になる。電気代はずっとかかるものだから、長い目で見れば設置したほうがトク」。多くの人が、こう考えて太陽光発電システムの設置に踏み切っているはずです。
できるだけ早期に費用を回収するために、多くの購入者が考える第一のポイントは、「できるだけ出力の大きいソーラー・パネルを設置する」こと。出力が大きければ、同じ日射でもより多く発電できます。このため多くの人は、ソーラー・パネルの変換効率に注目します。一般論として、変換効率が高いパネルなら、同じ屋根面積でも、より出力の大きなパネルを乗せることができ、同じ太陽の光でもより多く発電できるからです(ただし、屋根の大きさとの関連で、これが当てはまらない場合もあります。詳しくは関連記事を参照のこと)。
そして第2のポイントは、「できるだけ安く設置する」こと。パネルの出力など、ほかの条件が同じなら、少しでも安く設置して、初期費用を抑えるということです。発電量が同じなら、理屈では少しでも安く設置したほうが、費用の回収が早くなるからです。これが今回のご質問ですね。
普通に考えれば、これは正しいように思えます。しかし実際にはそう簡単にはいえません。たとえパネルのメーカーや出力がまったく同じだったとしても、設置工事の内容や、設置後のアフターサービスなどは業者によって違い、これが結果的に長年の費用回収に影響する場合があるからです。工事の内容など、どこも大して変わらないだろうし、ソーラー・パネルはめったに故障しないんだから、アフターサービスもいらないと考える人がいるかもしれません。しかしこれは間違いです。
「とにかく安く」と業者を選ぶのは危険
たとえ設置するパネルが同じだったとしても、工事の品質や設置後のサポートは業者によってかなり異なる。
「できるだけ安く設置すれば、早く回収できる」という考えは、次のようなイメージに基づいています。
200万円の初期費用を15年で回収する例
毎年少しずつ費用を回収して、15年目に元をとった。
図は、仮に200万円で太陽光発電システムを設置したとして、その初期費用を太陽光発電による電気料金の削減や売電によって、毎年少しずつ回収し、設置から15年目で回収するまでの様子を示したものです。発電量はお天気次第なので、発電で回収できるお金は毎年変わります(この例は、ちょっと大げさに年による差をつけていますが…)。それでも毎年少しずつ回収して、15年目に初期費用の200万円分を取り返したというものです。
ほかの条件が変わらなければ、費用回収を早くするには、初期設置費用をできるだけ安くすることです。たとえば仮に、上のケースで設置費用が半分の100万円程度になったとしたらどうなるでしょうか。
たとえば、設置費用が半分だったら……
上のケースで設置費用が仮に半分なら、9年目で初期費用を回収できることになった。
毎年の日射量は変わりませんから、太陽光発電で回収できるお金の部分は上と変わらないはずです。こうして設置費用が半分なら、9年目で初期費用を回収できることになりました。10年目以降は、まるまる利益になる計算です。「できるだけ安く」の心理は、このようなものでしょう。
15年間何事もなくソーラー・パネルが発電し続けてくれるなら、まったくこのとおりです。工事トラブルなどで修復に追加の費用などがかからず、ソーラー・パネルが故障せずに15年間正常に動き続けてくれれば、の話です。残念ながら、手放しでこれらを期待できるわけではありません。
まずは工事トラブルについて。
太陽光発電システムの設置工事では、数百キロの重量のパネルを、たいていは屋根に穴をあけて固定します。もちろん、雨漏りなどを起こしたら一大事です。毎日の生活に支障をきたしますし、修復に多大な費用がかかります。防水工事はしっかりしてもらわないと困りますし、パネルや配線などは10~15年以上も風雪にさらされても障害を起こさないように、しっかりと設置してもらわないと困ります。
太陽光発電システムの設置業者は、ソーラー・パネル・メーカーの研修などを受けており、業者によらず、ある一定基準の工事はしてもらえることになっています。「最低限の基準」をクリアしていれば、欠陥工事ではありません。しかし良心的な業者は、不測の事故を避けるために、基準以上の安全対策を実施することも多々あります。具体的には、防水処理を二重にするとか、配管のカバーを基準よりも強度の高いものするなどです。こうした基準以上の作業や、基準以上の部品利用などは、原価アップにつながりますから、それだけ業者の利益を圧迫します。それでも良心的な業者は、顧客の利益と自分たちの信用を守るために、万一の万一を考えて、必要基準以上の工事をしています。
最低限の工事だから問題が起こる、とは限らないわけですが、少しでも障害のリスクを下げてくれる良心的な業者のほうが安心ですよね。またこうした工事をする業者は、信用を大事にしているわけですから、何か起こればすぐに対応してくれるはずです。安さを追求するあまりに、こういう良心的な業者を排除してしまっていないか、慎重に考える必要があるでしょう。
次にソーラー・パネルの不具合の問題。こちらについては、別記事に詳細があります。この記事にあるとおり、産業技術総合研究所(産総研)の例では、210台の住宅用システムのうち、実に30%以上で何らかの不具合が発生してシステムの交換が必要だったという結果です。
「30%以上で不具合」という数字に驚くとともに、「しかし3割も故障するなら、どうして『故障しらず』などという宣伝文句が通用するのか?」と疑問に思った方もいるでしょう。ここに、太陽光発電の落とし穴があります。
産総研のソーラー・パネルは、常時実験などで使われていて、常に状態がチェックされています。パネルに何か問題があれば、すぐに見つかるというわけです。
一方、住宅の屋根に設置したパネルはどうでしょうか? 屋根の上ですから普段はあまりパネルを目にすることもなく、発電量はお天気まかせですから、発電が完全に止まってしまうとか、よほどの不具合でもなければ簡単には気づきません。パネルの一部に不具合が起こって、発電量が減っても、「たまたま、晴れ間が少なかったのかな?」と考えてしまうからです。しかしこうした不具合を放置すると、発電量はさらに低下していきます。たとえば次は、設置から6年目にパネルに不具合が起こって発電量が低下しはじめたが、不具合に気づかずずっと使い続けてしまった例です。
ソーラー・パネルが6年目に故障。でも気づかずそのまま使い続けたら……
15年たっても初期費用は回収できず、いつ回収できるかわからない。回収する前にパネルの寿命がきてしまうかもしれない。
この場合は、当然ながら、15年たっても初期費用は回収できません。いつになったら回収できるかもわかりません。途中で不具合に気づけばいいのですが、そうでなければどうなってしまうのか……。気づかないだけで、現実にはこのような状態に陥っている太陽光発電ユーザーは少なくないと思われます。
説明が長くなりましたが、質問の回答は、「安さを重視するのはよいが、そればかりに目を奪われず、しっかり良心的に工事をしてくれそうで、20年越しで付き合ってくれそうな業者を選ぶ」ということです。ソーラー・パネルの不具合を自分で見つけるのは困難ですから、定期的にしっかりとした点検をしてもらうことと、何か心配事があれば、すぐに業者に相談することです。またそうした際に、不具合の可能性を示すデータとして毎月の発電量をメモしておくことも大切です。
たとえ何十万円安く設置しても、工事やその後の対応がきちんとしていないと、最初の割引以上の高い代償を払わされる危険があるということを、くれぐれも念頭において業者を選んでください。
20年越しで気軽に相談できそうな業者を選ぼう
(2011/6/13 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。