「太陽光発電システムの設置工事で雨漏りを起こすトラブルが増加」という新聞記事が発表されて話題になりました。いくつかの設置工事業者に聞いたところでも、補助金や余剰電力の高額買い取りなどで太陽光発電システムの設置工事は急増しており、それに伴って雨漏りなどの工事トラブルも増えているとのことです。ひとくちに「工事トラブル」といっても内容はさまざまですが、いざ雨漏りともなれば、屋根の補修や発電モジュールの再設置など、多大な費用のかかる改修が必要になる場合もあります。
改めていうまでもなく、肝心なのは、工事トラブルを未然に防ぐことです。結論からいえば、これは「適切な工事をしっかり行ってくれる設置工事業者を選ぶ」のひと言につきます。しかし素人である一般の消費者が、工事業者を見極めるのはそれほど簡単ではありません。そこで本稿では、実際の工事業者さんを取材して得た情報から、不正工事、不良工事がどうして起こるのか、背景に何があるのかを確かめます。そしてそれらを踏まえたうえで、どうすればトラブルを未然に回避できるのかを考えましょう。トラブルの背景にある事情を知れば、業者選択の助けになるはずです。
まず始めに触れておきたいのは、設置対象である屋根や家屋を正しく見極めて、適切な工事を実施すれば、雨漏りなどのトラブルは起こらないということです。太陽光発電の健全な普及と発展のために、ときには自分たちの利益を削ってでも顧客のために丁寧な施工をしている工事業者はたくさんあります(今回取材に応じていただいたのは、そうした工事業者です)。太陽光発電システムの設置工事そのものに問題があるわけではありません。大事なことは、そうした誠意ある工事業者を選ぶこと、逆にいえば、いい加減な工事をする悪質な業者を選ばないようにすることです。
それでは、トラブルの背景にある典型的なケースを2つご紹介しましょう。
経済環境悪化の影響で住宅着工数が激減し、住宅関連の工事業者などが仕事を減らしている中で、太陽光発電システムの設置工事がここ数年急増したため、別業種から太陽光発電の設置工事に新たに参入する業者が増えています。太陽光発電システムの施工者になるには、各太陽光発電システム・メーカーが開催している施工研修を受講して、メーカー指定の工事業者IDを取得する必要があります(メーカーIDを持つ施工者が工事したものでなければ、パネル・メーカーの保証が受けられません)。この施工研修では、太陽光発電システムの設置に必要な一連の工事について教えてくれます。研修を終えれば、基本的な工事はできるようになるわけですが、研修会は3日から1週間とごく短期間ですし、研修用に用意されたモデル用の屋根などで設置実習を行うだけです。住宅の形状や立地条件、工法、屋根や家屋に使われている資材の材質などにはさまざまなものがあり、当然ながらそれらすべてのパターンを研修で学べるわけではありません。
新築、あるいは建築後あまり年数が経っていない(築後数年程度の)物件であれば、基本的な知識があれば対応できる場合が多いようですが、問題は建築後年数が一定以上になった既築住宅に工事する場合です。屋根や家屋の経年劣化という、経験がものをいう判断が求められるからです。住宅の立地条件や屋根の材質などにもよるので、一概に何年以上とはいえないようですが、建築後10年以上経っている場合には注意が必要でしょう(太陽光発電パネル・メーカーの中には、「築10年以内」の住宅にしか設置を許可していないところもあります)。
住宅の屋根は、直射日光に当たったり、強い雨に打たれたり、雪が積もったりと、過酷な条件下で家を守っています。このため時間が経つと、屋根材の表面が劣化したり、場合によっては屋根を支える内部の支えが老朽化したりしてきます。太陽光発電モジュールの設置では、300kgから400kg程度あるモジュールを屋根にしっかりと固定しなければなりません(→関連記事)。また発電モジュールは20年以上もつといわれており(→関連記事)、設置当初だけでなく、設置から10年~20年以上経過しても、しっかりとモジュールを支え続ける必要があります。このため、屋根の老朽化が激しければ、設置前に屋根全体をふきかえる必要があったり、部分的に補強したり、塗装したりする必要が出てきます。当然ながら、こうした補強工事には、内容に応じた追加費用がかかります。
追加費用負担は歓迎できませんが、それでも必要な補強工事を行えば、問題なく発電モジュールを設置できることもあるはずです。しかしここで問題となるのは、そうした補強の必要性を業者が正しく認識できないケースがあることです。外見だけでは簡単に分からない経年劣化などもありますから、ある程度、屋根施工に詳しく、実績がないと、補強の必要性を正しく判定できません。設置実績の少ない業者は特に注意が必要です。
今回取材した屋根施工に詳しい工事業者に聞いたところでは、現地調査の結果、あまりに屋根が劣化しているような場合には、太陽光発電システムの設置工事をお断りするケースもあるということでした。しかし業者のなかには、未経験で問題自体に気付かずに、結果として工事を強行してしまうケースなどがあるそうです。
特に、建築後年数が経過している既築住宅への追加設置では、屋根施工に詳しい工事業者に調査を依頼するようにしましょう。工事業者が屋根施工に詳しいかどうか分からない場合には、自分が持っている不安や疑問について徹底的に業者に質問しましょう。それで納得のいく回答が得られない業者なら、工事依頼は見送ったほうが無難でしょう。
建築後年数がたっており、屋根の老朽化などに心配がある場合は、屋根施工に詳しい工事業者に依頼する
いま述べた第1のケースは、工事業者が経験不足で、正しい状況判断が行えず、結果として不適切な工事をしてしまう場合でした。工事対象の状況にもよりますが、全体から見ればそういうトラブルは少数とのことです。圧倒的に多いトラブルは、本来守るべきルールや基準を守らないで工事されたケースです。原因としては、不当な利益の確保、取り扱いメーカーの制限の強行回避、顧客無視のずさんな工事、などがあります。
特に多いのは、工事基準を無視した無理な設置工事です。各太陽光発電システム・メーカーは、安全にシステムを設置し、正しく稼働させるために、それぞれに施工基準を設けています。施工基準にはおおよそ以下のようなものがあります。
基準となる項目 | 意味 |
---|---|
築年数 | 住宅が建築後一定年数以下であること。築後10年以下など。築年数は指定しないメーカーも多い |
基準風速 | 地域ごとに規定されている基準風速が一定以下であること。「風速40m/s以内」など。基準風速は住宅がある地方、地域ごとに決まっている |
塩害 | 海岸から一定以上離れていること。「海岸から500m以上」など |
積雪 | 住宅がある地域の最大積雪量が一定数値以下であること。「240cm以下」など |
設置高さ | 屋根の高さが一定の高さ以下であること。「13m以下」など |
モジュール設置可能範囲 | 屋根の端から一定の距離はモジュールを設置できないという制限。「屋根面の周囲50cmは設置不可」など |
メーカー施工基準の項目と意味
太陽光発電システム・メーカー各社は、施工マニュアルでこれらの具体的な基準を定めており、基準外の工事を認めていません。残念なことですが、この基準を無視して工事を強行し、トラブルになるケースがあります。
最初から基準など無視して、売りつけてしまえ、というような悪質な業者もあるかもしれませんが、問題はもう少し複雑です。具体的な基準は各社まちまちで、場合によっては「A社製品なら工事できるが、B社製品ではできない」というケースがあることです(たとえば、A社製品は強風地域では工事不可だが、B社製品では風速制限がないなど)。設置工事業者の多くは、太陽光発電システムを仕入れるメーカーをいくつかに限定しており、どこのメーカー製品でも仕入れられるわけではありません。先に述べたとおり、施工にあたってはメーカーの施工研修を受ける必要があり、複数のメーカーに対応するには手間も時間もお金もかかります(施工研修は有料です)。またシステムを仕入れるメーカーを絞り込み、仕入れの量を増やすことで、仕入れ単価を低減して、自身の利幅を増やしやすくなるという事情もあります。
仮に、太陽光発電システムのA社製品を専門に扱っている工事業者がいたとします。この業者が依頼を受けた住宅を調べたら、一部施工基準外の要素が見つかりました。B社の基準ならなんとか工事できるのですが、A社では基準外です。A社の基準を守ろうとすれば、この業者は施工をあきらめて、B社を扱っているほかの業者に顧客を明け渡すほかありません。しかし、どうしてもその工事をあきらめたくなかったら……。なかには、それが重大な問題でないと判断して、基準外でも工事してしまう業者があるかもしれません。
この場合、後でトラブルになる危険性が高いことももちろん、万一何か起こっても、基準外の工事で発生したトラブルについては、太陽光発電システム・メーカーの保証が適用されないという問題もあります。
たとえば次の写真は、屋根からはみ出して発電モジュールが設置されてしまった例です。少々わかりにくいですが、よく見ると、屋根からパネルの角が一部はみ出していることがわかります。見栄えが悪いのはもちろんですが、これでは強風などが吹くと、パネルが下側からあおられて、飛んでしまう可能性もあります。この例は、工事基準外などというなまやさしいトラブルではなく、パネル設置の設計もいいかげん、施工もいい加減なかなり悪質なケースです。なぜこうなってしまったのか、原因はわかりませんが、少しでも多くの発電モジュールを搭載して、売り上げを増やそうとしたのではないかと思われます。1件の工事にかかる手間はそれほど変わりませんから、より多くのモジュールを搭載すればするほど、売り上げは増え、利益も増やしやすくなります。
ちなみにこのケースでは、工事を依頼したユーザー自身が問題に気付き、工事業者に連絡したものの、業者は行方不明でつかまらず、途方にくれてしまったとのことでした。実はこうしたいい加減な工事を行う業者は、倒産するなどして連絡がつかなくなってしまうことが多いということです。つまり、修繕費用もユーザー負担になってしまうこともあるわけです。
業者が本当のことをいってくれなければそれまでですが、工事が施工基準に合致したものか、何かおかしなところがないか、工事の契約を結ぶ前にできるだけ確認するようにしましょう。
工事が基準に合致したものか、事前にしっかり確認しておく。
太陽光発電システムの設置時に提供される国の補助金では、支給条件として、「設置する発電モジュールの出力1kWあたり工事費70万円まで」という制限が加えられています(2010年2月現在)。つまり、たとえば4kWの出力の発電モジュールを設置するなら、工事費は4kW×70万円=280万円以下でなければ、国の補助金は受けられないというものです(ほとんどの都道府県や市区町村の補助金も、1kWあたり工事費70万円という同じ制限が適用されています)(→用語解説)。このルールは、工事費用に実質的な上限を設けることで、できるだけ安価に太陽光発電システムが普及するように配慮されたものです。
確かにこのルールのおかげで、設置費用の目安ができて、悪質業者が不当に高額な工事費用を請求したりしにくくなっています。しかし工事トラブルの背景という意味で、この制限にはそうしたメリットの一方で、デメリットがあることも知っておく必要があります。
太陽光発電システムの設置工事は、おおまかにいえば、発電モジュールを屋根に設置し、これらのモジュールとパワーコンディショナなどの宅内設備、電柱から引いている電線などを接続することです。これだけいうと、さして工事にバリエーションなどないように思えますが、実際には、モジュールの屋根への固定方法や、屋外・宅内の配線方法など、細かくみれば工事方法にはいろいろな選択があります。少しでも見栄えをよくするために部品を追加したり、ひと手間かけたりする、万が一にも雨漏りなどのトラブルを発生させないように、二重三重の対策を講じておく、など細かく見ていけばきりがありません。
住宅は何十年と住むわけですし、太陽光発電システムも20年以上もつわけですから、工事してもらうユーザーの立場からすれば、少しでも丁寧に、手間をかけ工夫をしてきれいに、頑丈に工事してもらいたいものです。しかし追加部品が必要になったり、手間をかけたりすることは、業者にとってみればコストアップ(つまり利益の減少)につながります。工事費用の上限が決まっているわけですから、業者が適正利益を確保して、継続的に事業を行うために、使える部品や手間などは制限されるということでもあります。
だからといって手抜き工事をしたり、前出の写真のようにとんでもない工事をしたりするのは論外ですが、取材していちばん気になったのは、「利益確保のために、安全対策が犠牲になることが多い」という話があったことです。安全対策とは、たとえば急傾斜の屋根に設置する場合は、転落の危険があるので、足場を組んで施工者の安全を確保するのですが、この足場を組むのに5万円~10万円程度かかります。利益確保が困難になると、こうした安全対策を省略してしまうことが多いのだそうです。当然ながら、安全が確保されない状況では、しっかりした工事は期待できません。施工トラブルにつながる可能性も高まります。
購入するユーザーの立場からすれば、設置費用は安いほどありがたいもの。でも行き過ぎた値下げは、場合によってはユーザー自身が影響を受けるリスクを増やすこともあると知っておくべきでしょう。工事費用が高額すぎず、妥当な金額であることに注意するのはもちろんですが、逆に、値段を叩きすぎると、自身のマイナスにつながる場合もあります。工事費用は安かったが、後からいろいろと出費がかさんだなどという「安物買いの銭失い」にならないように注意しましょう。
必要以上に値切ると、工事トラブルのリスクを高める場合がある。
別稿「太陽光発電システム設置工事業者選び10のポイント」で紹介していることと重複もありますが、ここで改めて、失敗しない業者選びのコツをコンパクトにまとめましょう。
今回の取材で、おもしろい業者選びのコツを聞きました。それは業者に対して、「近親者に設置した人がいるか聞く」というものです。
設置工事業者自体も、家に帰れば一消費者です。太陽光発電が本当によいものだと自信があるなら、業者自身がまずは設置して、太陽光発電を実際に体験していなければおかしい、というのです。特に業者は、設置工事を自分で行うわけで、通常のユーザーよりも安く設置できるはずですから、投資費用も小さく、費用回収までの期間も短いはずです。セールスマン本人はマンションなどの共同住宅に住んでいて設置できなかったとしても、所属会社の社長さん、あるいは両親や親戚など、身近に設置できる人が必ずいるはずです。
質問して、近親者で設置した人がいると回答があったなら、そのお宅の発電状況の実データを見せてもらいましょう。セールスマンにしたところで、人ごとのようなカタログの数字よりも、実データのほうが迫力があるはずです。またこの質問によって、工事業者に工事実績があるのかどうかを確かめることもできます。
仮に読者が工事業者だったとして、これから長期的に太陽光発電システムの設置事業に取り組むつもりなら、いい加減な仕事はできるでしょうか。いい加減な工事が評判になったりすれば、あっとう間に信用は地に落ちて、誰もあなたに工事を依頼しなくなってしまうでしょう。事業を継続しながら成長したければ、1つ1つの工事を丁寧に仕上げて、少しずつ信用を積み上げようとするはずです。
これを逆に考えて、そういう業者を選ぶようにすれば失敗は減らせるはずです。具体的には、太陽光発電システムの設置工事を短期の金稼ぎではなく、長期的な仕事として取り組んでいる業者、何かあったらすぐに連絡して相談でき、必要ならすぐに現場に飛んできてもらえるような地元の業者を選びましょう。
これまでの説明を読めば、当然といえば当然なのですが、業者にしっかり現場を見てもらわなければ、工事の可否や、具体的な工事内容は決定できません。しかし現実には、図面や写真だけを元に、工事契約(ないしそれに準じる約束)を取り交わしてしまうケースがあります。こうした契約を促す業者は信用できません。
工事費用の見積もり金額が極端に安い場合や、発電シミュレーションの結果があまりに楽観的な場合には注意が必要です。システムを販売したい一心で、よいことばかりを並べたてている可能性があります。1社から見積もりを取るだけではこれはわかりませんから、合い見積もり(→関連記事)をとって比較するようにしましょう。あまりに安かったり、発電シミュレーションの数値が楽観的だったりしたら、どうしてそうなるのか問いただしましょう。
雨漏りは重大なトラブルではありますが、電気工事のトラブルは、ときにさらに重大な問題を引き起こす可能性があります。原因は単純で、ほとんどは電線の接続部分のネジをしっかり締めなかったり、接点をしっかり固定するための部品(ワッシャなど)を正しく使わなかったりすることです。こうした電気工事のトラブルが原因で、漏電が起きる可能性があります。最悪の場合、火災につながるケースもあるそうです。とはいえこの問題についても、ユーザーがネジ止めや配線をいちいち確認できませんから、業者を信頼するしかありません。安心してまかせられる業者選びがいかに重要であるかを改めて感じます。
(2010/2/26 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。