最近、一部のソーラー・パネルメーカーが、「発電量の重要性」をうたっています。これは、ソーラー・パネルの性能指標として「変換効率」ばかりが注目される中で、必ずしもこれが絶対的な指標ではないことを主張するものです。気象条件によっては、カタログ上の変換効率が低いパネルのほうが、変換効率が高いパネルよりもたくさん発電する場合もあるのです。このことについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
できるだけたくさん発電できるソーラー・パネルを、可能なかぎり安価に設置したいと考えるのは消費者として当然でしょう。メーカー各社のソーラー・パネルのカタログとにらめっこして、できるだけ性能の高いパネルを選ぼうとした人は多いはずです。このような場合に、パネルの性能を測る指標として最もわかりやすいのが「変換効率」です。各パネルの出力やサイズ、価格は製品によってまちまちですが、変換効率は単位面積あたりの出力性能で、横並びに比較できるからです。同じ面積なら、変換効率が高いパネルは、変換効率が低いパネルよりも多くの電気を作り出せます(変換効率の詳細は別記事を参照)。
現在は太陽光発電システムの設置に対して、国から(場合によっては都道府県や市区町村からも)補助金をもらえます。補助金額の算出基準となるのは、設置するソーラー・パネルの出力数です。たとえば2011年度(平成23年度)なら、ソーラー・パネルの出力1キロワットあたり4万8000円の補助金を国からもらえます。同じ面積のパネルなら、変換効率が高いパネルのほうが出力が大きいので、変換効率が高いパネルのほうが、一般に補助金の点でも有利です。
こうして多くの消費者は、カタログの「変換効率」に注目して、パネルのよしあしを測っています。
カタログに記載されるパネルの変換効率は、国際的な規格で決められた条件で測定されたもので、各メーカーが都合のよいように計測したものではありません。具体的には、パネルの温度は25度、ここに快晴時相当の強さの光(1000W/m2)を照射して発電される電気を計測して、各パネルの変換効率の値を決定します。こうして求められた値自体は、信頼性の高いものです。
けれどもここで考えなければならないことがあります。太陽光発電システムの設置費用は、電力会社から電気を買わずに、ソーラーパネルで発電した電気を使って電気代を節約したり、余剰電力(→用語解説)を電力会社に売電して収入を得たりすることで少しずつ回収していくものです。つまり私たちユーザーが期待するのは、ソーラー・パネルでできるだけ多くの電気を作り出すことです。これまで説明してきたとおり、変換効率が高いパネルは、低いパネルよりも同じ面積ならたくさんの電気を作り出せるということから、消費者は変換効率に注目してパネルを選択しているわけです。
問題は、その変換効率の値が、特定の条件(25度、1000W/m2の光)を前提にしていることです。実際には、パネルの温度は、季節や1日の時間帯によって変化し続けます。日射の強さにしても、晴れと曇りでは大きく違いますし、同じ日でも、朝方から昼間、夕方までで変化し続けます(詳しくは述べませんが、日射だけでなく、光の波長も変化して発電量に影響を及ぼします)。こうした気象条件によらず、パネルの変換効率が変わらないのならばよいのですが、実際には、温度や日射によって、パネルの変換効率も変化するものなのです。
ソーラー・パネルの構成などによって、各メーカーごとに変換効率の特性が異なります。一般に主流である結晶系のソーラー・パネルは、高温になると変換効率が低下しますが、化合物系のパネルであるCIS太陽電池(→用語解説)やCIGS太陽電池(→用語解説)は結晶系ほどは低下しないとされています。また一定以下に日射が弱くなると、変換効率が大きく低下するようなパネルと、そうではないパネルがあります。少しわかりにくいので、図で説明していきましょう。
たとえばいま、カタログ上の変換効率が大きなパネルAと、それよりも変換効率が小さいパネルBがあったとしましょう。ただしパネルAは、高温になったり、日射が一定以下になったりすると、変換効率が大きく低下する特性があります。パネルBのほうは、高温でも日射が弱くても、それほど効率は変わらないとしましょう。ここで3つのケースについて考えてみます。
ケース1は、国際規格の測定条件である温度25度、日射1000W/m2の場合です。この場合、パネルAのほうがパネルBよりも変換効率が高いという結果です。ソーラー・パネルのカタログには、この結果が記載されます。カタログだけ見れば、パネルBよりパネルAのほうが優れていて、たくさん発電できる、という評価になります。
ケース2は、国際規格の測定条件よりも温度が高かった場合(パネル温度60度)です。パネルAは高温になると効率が大きく落ちる性質があるものの、パネルBはそれほど落ちないとすると、このように両者に違いがなくなる場合があります。このグラフでは、パネルAもパネルBも、発電量は同程度になっています。条件によっては、パネルBのほうがたくさん発電できる場合もありえます。
ケース3は、温度は25度だが、日射が200W/m2と弱くなった場合です。ここでもパネルAは効率低下が大きく、パネルBはそれほどでもないとすると、このようにカタログほどの違いがなくなります。この場合も、場合によってはパネルBのほうがたくさん発電することもありえます。
つまりカタログからわかるパネルの性能はケース1の場合だけで、ケース2やケース3についてはカタログを見てもわからないということなのです。場合によって、気温が高い地方や、曇りがちな地方などでは、カタログ上の性能は劣るパネルBを設置したほうが、むしろ年間を通してたくさん発電できるという可能性もあるわけです。
カタログに記載された変換効率は、特定の条件下で測定したもので、実際の設置環境では、パネルの性能がカタログ値とは異なる場合があります。カタログの変換効率は絶対的なものではない、これが「発電量が重要」と主張するメーカーがいいたいことです。
ただし難しいのは、自分の家の設置条件に適していて、より多くを発電できるパネルがどれなのか、カタログを見てもわからないことです。各社の発電量の実測値について、ソーラークリニックというWebサイトが調査結果を公表しています。
これは、全国588件の太陽光発電ユーザーが実際に発電量を計測し、その結果を集計したものです。サンプル数が少ないメーカーもあるので、この結果が絶対とはいえませんが、参考にはなるでしょう。
消費者としては、「変換効率は、パネルの性能を示す重要な指標ではあるが絶対ではない。設置条件によって変わってくるものだ」と認識しておき、自分にどのタイプのパネルが合うのかは、専門家である設置工事業者と納得がいくまで相談する必要があるでしょう。
(2011/11/2 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。