運用・検査の問題点を指摘する前に、産総研で発生した故障・不具合の具体例について簡単に紹介しておきましょう。下の写真は、産総研で故障・不具合が多かったA社製パネルのうち、実際に不具合を生じたパネルを裏側から撮影したものです。
本来、このパネルのセルの裏側は白いのですが、1枚だけうっすらと茶色に変色しているセルがあります(写真の点線部分)。このセルでいったい何が起こっているのでしょうか? 問題のセルを赤外線カメラ(赤外線サーモグラフィ)で写してみると、問題のない周囲のセルに比較して、非常に高温になっていることがわかりました。撮影したこの日は、6月のとある快晴の日でした。周囲は40度程度なのに比べ、問題のセルは90度くらいになっていました。
加藤さんの説明によれば、このセルでは、電流を流すための配線(ハンダ接続)に問題があって、電気の流れが悪くなっているのだそうです。セル自体は日光が当たれば発電して電流を流そうとするわけですが、電気が流れにくくなっているため、一部が熱エネルギーになってしまい、高温になっているとのことです。これは一例ですが、A社製品では、同じような故障や不具合が複数確認できたそうです。
さて、先に触れた太陽光発電システムの運用・検査の問題点に話を進めましょう。いま紹介した不具合発生セルでは、電気の流れが悪くなっていて、せっかく発電した電気が熱に変わってしまっているわけですから、全体的な発電量は低下しているはずです。実際に計測してみると、メーカーのモジュール出力保証よりも低下しており、きちんと点検すれば交換対象になる不具合になっているそうです。ソーラー・パネルで一部のセルが不具合を起こした場合、周囲のセルに影響を及ぼして、不具合セルの分以上に発電量が減る可能性があります(詳細については、別稿「パネルに陰が入ったときの影響について教えてください(よくある質問)」を参照のこと)。
しかし一般的なメーカーの点検では、この不具合は発見できないと加藤さんはいいます。メーカーの通常の点検では、パワーコンディショナや接続箱など、屋根のソーラー・パネルからくる電線にテスターを当てて、電圧(開放電圧)を計測するんだそうです。そこで、今回の不具合セルを含むシステムで通常の検査と同じようにテスターを当てて、電圧を測ってみました。
この太陽光発電システムには、全部で3系統の配線があり、このうちの1つの系統に問題の不具合セルが含まれています。まずは、不具合のない系統で電圧を測ってみました。
計測結果は203.3Vでした。次に、不具合セルを含む系統の電圧を測ってみます。
不具合があるのに、先ほどとさして変わらない202.7Vでした。どうしたことでしょう?
ここでは技術的な話は控えますが、加藤さんの説明では、ソーラー・パネルというのは、たとえ曇りでも、一定以上の光があたれば、設計された系統の電圧を安定的に出すのだそうです。高温になると電圧は少し下がるそうですが、極端な変化はないのだとか。完全な断線などが起こっていなければ、開放電圧の計測だけでパネルの故障・不具合を見つけるのは難しいのだそうです。
本当は電圧ではなく、電流のほうをきちんと測れば、故障・不具合を含む系統では電流量が減っていることがわかります。ただ、電流のほうは日照の強さに応じて大きく変化するので、計測したところで、どれだけあれば正常で、どれだけ以下は故障・不具合かを簡単には判断できないというのです。このためメーカーの通常の点検では、普通は電圧だけを計測して、設計電圧が出ていれば問題なしとしているのだとか。それでは、故障・不具合はどうやって見つけたらいいのでしょう?
今回のようにソーラー・パネルの裏側を目視で確認できれば、熱による変色を検知できるかもしれません。しかし通常の住宅に設置されているソーラー・パネルは、簡単には裏側を見ることはできません。
条件さえ整えば、今回使った赤外線カメラで見れば、違いは一目瞭然です。しかし赤外線カメラは非常に高価であること、日照が十分なときでないと、故障・不具合が明確な温度差に現れないこと、また温度分布画像から故障・不具合の存在を見つけるには一定の経験と知識が必要なことなどから、この方法を広く用いるのは現実的ではありません。
どうして産総研のソーラー・パネルは故障・不具合が多かったのか、ここでもう一度考えてみましょう。産総研では、ソーラー・パネルの品質や耐久性を調査することが目的の1つになっており、加藤さんはさまざまなパネルの検査を定期的に実施しています。このため、加藤さん自身も故障や不具合があれば指摘するでしょうし、メーカー側もそういう前提を知っているわけですから、点検についても通常よりも厳しくしている可能性があります。つまり、産総研で故障・不具合が多かったのは、たまたま質の悪いパネルを買わされたからではなく、故障・不具合を早期に発見しやすい環境が整っていたから、という可能性があります。
逆にいえば、通常の住宅に設置されたソーラー・パネルは、それほど厳しい点検もされず、実は故障・不具合は起こっているが、発見に至っていないものが少なからずあるのではないか、と考えられます。加藤さんはいいます。「ソーラ・パネルは可動部がないから故障しにくいといわれていますが、別の見方をすれば、故障や不具合を起こしていても異音もせず、よく調べなければそれを発見することが難しいのです。故障・不具合がないのではなく、故障・不具合はあるが見つかっていないだけではないか、と疑っています」(加藤さん)。
ソーラー・パネルには、10年以上の出力保証がついています。これは、保証期間内に出力が一定以下に下がったら、無償で交換してもらえるというものです。最近は20年保証とか、25年保証など、保証期間は延びる方向です。消費者としては、手厚い保証、長期の保証があれば安心ですが、今回の結果をみると、手放しでは喜べない現実があることに気づかされます。つまり故障・不具合があっても、通常の点検だけではそれを見つけられない可能性があるということです。もちろん、意図的に故障や不具合を隠したり、通常は故障・不具合を見つけられないからと、絵に描いた餅の長期保証をつけたりしているとは思いませんが、メーカーの点検だけに頼っていると、保証を正しく受けられない危険があるのは事実でしょう。
保証期間後に故障や不具合が見つかった場合は、無料交換ではなく有償対応になります。けれど本当は故障・不具合が起こったのは保証期間内だったが、気づかずにそのまま使っていて、保証期間後にそれが見つかった、ということもあるかもしれません。
今回の取材は、「ソーラー・パネルは故障・不具合知らずのメンテナンス・フリー」と信じていた筆者には衝撃的なものでした。太陽光発電システムの多くの営業マンがこのフレーズを使うのも、別に顧客をだますということではなく、本当にそう信じているからだと思います。しかし実際は、だいぶ事情が違うようです。
太陽光発電システムは高い買い物で、何十年もかけて初期投資を回収するものです。また太陽光発電システムの設置には、金銭的な損得だけでなく、何もしなければ、ただ無駄になってしまう太陽光のエネルギーを有効な電気エネルギーに変えて活用するという環境への配慮もあるはずです。これらの目的を達成するには、何十年という長期にわたって、太陽光発電システムを正常に稼働させ続けなければいけません。今回の結果を踏まえて、これを実践するためのポイントをまとめてみました。
発電量は天候に左右されますから、たとえば前年から大きく減ったとしても、すぐに故障・不具合かどうかはわかりません。しかし長期的に記録を続ければ、異常を発見する手がかりになりますし、異常をメーカーに通知するときも証拠になります。
なお、今回の調査に協力したPV-Netは、設置地域やパネルの出力などをあらかじめ登録しておいて、気象データからその地域での標準的な発電量を割り出し、そこからの乖離(かいり)率を算出できる「PV健康診断」というサービスを行っています(→PV-Netのホームページ)。乖離が大きくなったら、故障・不具合を疑う必要があるということです。利用には年会費(3000円)を支払って会員になる必要がありますが、太陽光発電システムを設置したら、利用を検討してみるとよいでしょう。
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最後に、今回ご協力いただいた加藤さんの言葉をご紹介してしめくくりとしましょう。
「根本的な問題の1つは、太陽光発電システムの品質や耐久性に関する検査基準がないことです。品質に関する基準を早急に作る必要があります。現状は、変換効率とか、低価格化ばかりに注目が集まっており、『品質』が置き去りになってしまっています。ほんの少しばかり効率がいいとか、価格が安いというのは、20年、30年と故障や不具合を起こさず安定的に発電することと比べれば、たいした問題ではありません。ぜひ消費者のみなさんには、太陽光発電システムの品質について、もっと厳しい目を向けてほしいものです」
(参考文献)
PVRessQ! 第一次中間報告(2006-2008年度)「PVシステムは『メンテナンス・フリー』なのか?」「PVシステム故障の実態(2) 産総研メガ・ソーラタウン編」 加藤和彦 著
独立行政法人産業技術総合研究所
太陽光発電研究センター
評価・システムチーム
主任研究員 工学博士
加藤和彦 さん
太陽光発電システムの健全な普及拡大に向け、利用者視点からその運用・保守がどうあるべきかを考え、行動する「PVRessQ!」という活動を展開中。
(2010/7/9 更新)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。