このように全量買取制開始以来は、全量配線が賃貸アパート向け設置の既定路線になりました。屋根が広ければ大出力のパネルを設置しやすいわけですから、マンションのような大規模集合住宅なら、屋根が広く有利な気がします。しかし実際には「陸屋根(りくやね)問題」ということがあり、簡単にはいかない事情があると尾上さんはいいます。陸屋根(→用語解説)とは、角度のない平らな屋根のことです。
ソーラー・パネルは、発電効率や雨によるほこりの洗い流し効果などの理由から、角度をつけて設置する必要があります。この記事の冒頭で掲載した写真のように、ななめの屋根であれば、屋根そのものにパネルを置くことができるのですが、大規模なビルの屋根は平らな陸屋根なので、パネルに角度を付けるために、土台(架台)を別に設置する必要が出てきます。この費用が高額なのです。
現在では、安価に設置できる工法も開発され、陸屋根でも設置できるようになってきましたが、費用が増えるということは念頭に置く必要があります。たとえば日本エコシステムでは、パネルの外側に重い金属のフレームを取り付け、屋根に穴などあけずに置くだけで、自重で固定できる工法(ソーラーベース)を提供しているそうです。
ソーラーベース
パネルの外側に重い金属フレームを取り付け、屋根に置くだけで自重により設置できる。
この記事の初版を公開した2011年初旬、メーカーが提供する太陽光発電システムの主流はあくまで住宅向けで、賃貸アパート向けラインアップは少なく、工法や保証などが住宅向けとは異なる場合があるので、設置では注意が必要、という説明をしました。
特に賃貸アパートの場合、パワーコンディショナは屋外に設置することになりますが、一部メーカーの製品を除き、住宅向けシステムのパワーコンディショナは屋内設置を前提として製造されていました。日本エコシステムでは、メーカー許可のもと、雨風の影響を受けないように小さなボックスを屋外に設置して、その内部にパワーコンディショナなどを設置していたものの、当時は屋内向け製品をそのようなボックスに設置することは許可されておらず、想定外の設置方法とみなされ、保証対象外となる場合があったそうです。尾上さんは、この当時から賃貸アパート向けのシステム販売を手掛けていましたが、このような事情から、メーカーを説得して産業用の製品を販売したり、メーカー保証が受けられない場合には、自社が保証を肩代わりしたりするなどしていたといいます。
屋外のボックスに設置されたパワーコンディショナ
この当時と比較すると、現在は賃貸アパート向けの製品ラインアップも拡充してきており、2013年春には、基本的にすべてのメーカーから、屋外設置型(集合住宅対応型)のパワーコンディショナが発売されました。設置が増えるとともに、製品選択の幅も広がってきているようです。ただし尾上さんによれば、「メーカー保証があるので大きな問題はないかもしれませんが、長期間にわたって多様な気象条件で使われるものですから、やはり屋外設置の実績が長いメーカーが安心できます」とのことです。
尾上さんによれば、賃貸アパートならではの設置工事のむずかしさがあるといいます。通常の個人住宅なら、家の中に入って屋根裏を簡単に確認できますが、すでに居住者がいる賃貸アパートでは、これが簡単ではないのだそうです。多くの場合、居住者がいる部屋から屋根裏に登る必要があり、その許可を得るのが簡単ではないといいます。また図面などがないケースもあり、屋根の構造を把握するのが難しいケースも少なくないそうです。詳しくは教えてもらえませんでしたが、こういう場合もチェックポイントをいくつか押さえれば、確実な工事ができるんだそうです。設置工事を依頼する際には、これまでに賃貸アパート向けの設置実績があるかどうかも調査したほうがよさそうです。
賃貸アパート向けの太陽光発電システム設置の魅力は、何といっても低リスクで高い利益を見込めることです。たとえば日本エコシステムの設置例では、9.88kW(10kW未満)の共用連系設置で、設置費用345万円(補助金分減額後)で、毎月の売電収入は平均3万5000円、年間では42万円の収入があり、10年では420万円の収入見込みがあるケースが紹介されています(2012年度設置の場合)。考え方によっては、10年間、空室知らずの部屋を1つ追加するようなものだそうです。
ここで詳細は触れませんが、大規模な全量配線の場合は、設置費用も高額になる代わり、収入もそれだけ大きくなります。想定利回りは、年利10~12%程度だそうです。銀行にお金を預けても、年利1%にも満たない低金利時代にあって、低リスクで年利10%以上というのは非常に魅力的な投資でしょう。賃貸アパート・オーナーが設置に積極的なのも理解できます。
基本的には低リスクな投資案件といえる賃貸アパート向けのソーラー・パネル設置ですが、それにはあくまで、10年~20年にわたって大きなトラブルなく発電し続けてくれる必要があります。「当然ながら個人住宅は、1人のオーナーさんが所有するのは1軒だけです。同じ人が何回も買うということはありません。けれども賃貸アパートのオーナーさんは、複数物件を所有しているのが一般的です。このため最初にしっかりといい仕事をした業者は、同じオーナーさんから次々と設置依頼を受けるものです。個人住宅向けの設置とは異なるノウハウもたくさんありますから、依頼するのであれば、こういう実績の高い業者を探すのがなにより安心につながりますね」と尾上さん。
一見すると、いいことづくめの賃貸アパート向けソーラー設置。これからもどんどん設置が進むのかと思いきや、尾上さんによれば「条件のよい物件には、もうほとんど設置されてきています」とのこと。これに対し日本エコシステムでは、地方の太陽光発電に向いた安価な土地を利用してソーラー・パネルを置き、土地ごと分譲するパッケージ商品を発売開始したところ、問い合わせが殺到しているのだとか。太陽光発電ビジネスは、まだまだイノベーションが続きそうです。
株式会社 日本エコシステム
営業第二部 部長
兼 集合住宅営業推進室 室長
尾上(おのうえ) 浩二 さん
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(2011/6/ 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。