真っ赤なウソというわけではありませんが、かなり誤解を招く表現です。厳密にいうなら、「なるべくよい条件でソーラー・パネルを設置して、一方で電気などの節約に励むことで、光熱費が実質的にゼロになる場合がある」と説明すべきところです。どういうことなのか、詳しく説明しましょう。
屋根のソーラー・パネルに日光が当たると、そこで電気が作られます。こうして作られた電気は、まずは自分の家で使い、それでも余りがある場合は余剰電力として電力会社に売電します(→関連記事)。まず誤解してはいけないのは、太陽光発電システムを設置しても、電力会社から電気を買わなくなるわけではないということです。当然ながら、夜は太陽光による発電はできませんし、昼間でも雨やくもりの日など日射が弱ければあまり発電できません。そのときは通常どおり、電力会社から電気を買う必要があります。
太陽光発電システムの普及を目的として、2009年11月1日より、余剰電力の売電価格が48円/kWhとそれまでの2倍と高額になりました(→関連記事)。太陽光発電システムを設置したら、その時点での売電価格(いまなら48円/kWh)で向こう10年間は売電ができます。このように、売電価格が高額になったため、売電による収入は以前と比較すると格段に増やしやすくなりました。
さて、太陽光発電システムを設置した後の光熱費の支出と、売電による収入の関係を図にすると次のようになります。
太陽光発電システム設置後の光熱費支出・売電収入の関係
図の左側は、支払いが必要な電気料金やガス料金です。太陽光発電システムを設置すると、昼間は発電した電気を使えるので、設置前よりは電気の消費は減るはずです。ただし夜などは電気を消費しますから、電気代はかかります。給湯などでガスを使っていれば、当然ながらガス代がもかかります。オール電化住宅(→用語解説)の場合はガス代はかかりませんが、ガスではなく電気を使ってお湯を沸かしたり、IHクッキングヒーター(→用語解説)を使ったりします。工事業者が「光熱費ゼロ」をうたって営業するときには、オール電化への移行を前提に、ガス代の削減も念頭に置いている場合が多いようです。
これに対し図の右側は、余剰電力の売電によって受け取る収入です。
業者がいう「光熱費ゼロ」とは、この図の左側の支払うお金と、図の右側の受け取るお金の金額が同じということです。
「光熱費ゼロ」を実際に実現している太陽光発電ユーザーはいますし、ゼロどころか売電収入のほうが多いという人もいます。しかしそうした例が一般的かといえば、そうとはいえません。「光熱費ゼロ」を実現するために何が必要なのでしょうか? 答えは簡単で、「できるだけ節約して電気やガスの消費を抑え、できるだけたくさん太陽光発電して余剰電力をたくさん売電すること」です。
たくさん太陽光発電するには、できるだけ大容量のソーラー・パネルを、できるだけ日照条件のよい屋根に設置することです(南面 30度の傾きでパネルを設置するのが最適とされます。→関連記事)。とはいえ屋根の面積や予算で制限を受けますから、無尽蔵に大容量のパネルを設置できるわけではありません。住宅向け設置実績の全国平均の出力は、4kW程度だとされています。
そして電気やガスの節約です。こちらは説明する必要はないと思いますが、生活を工夫したり、より省エネルギーの機器に置き換えたりすることで節約が可能でしょう。ただし、家族の人数や住宅がある地方(一般に寒い地方は暖房のための光熱費がよけいにかかります)などによって消費エネルギーは変わります。節約にはおのずと限度があります。
このようにさまざまな条件が関係しますから簡単にはいえませんが、4人家族の一戸建て住宅で、4kW程度のソーラー・パネルを設置したとして、「光熱費ゼロ」を実現するには、一定の努力が必要だといえるでしょう。少なくとも、節約を意識せずに使いたいだけ電気やガスを使ったのでは、光熱費ゼロを達成するのは困難です。
何より、安易に「光熱費ゼロ」をうたい文句とする営業マンや広告を見かけた場合は、まずは疑ってかかったほうが安全でしょう。
(2010/10/15 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。