通常、住宅向けのソーラー・パネルは、北面を除く家の屋根面に設置します。屋根の大きさや方角などは住宅によってまちまちですから、ソーラー・パネルを設置できる面積は家ごとに異なります。
条件に適した屋根の面積が広ければ、より多くのソーラー・パネルを置けますし、逆に面積が小さければ設置できるパネルは少なくなります。一般的にはソーラー・パネルをたくさん置ければ、それだけ大出力の発電ができます。
太陽光発電システム設置の見積もりでは、いま述べた屋根の条件や生活スタイル(電気消費のスタイル)、予算などさまざまな条件を総合的に判断して、どれくらいの出力のソーラー・パネルを設置するかを決めます。
この際に、設置できるソーラー・パネルの出力があまりに小さいと、「設置に適さない」といわれてしまう場合があります。この記事を執筆している現在(2011年9月時点)では、住宅向けに設置されたソーラー・パネルの全国平均の出力は、4kW程度といわれます。ほかの条件もあるのでいちがいに「何kW以下は不適」、とはいえないのですが、聞くところでは、2kW前後を境にそのような忠告がされることがあるようです。
設置するソーラー・パネルの出力が小さいと、どうして不利になるのでしょうか。「設置不適」とはどういうことでしょうか。その理由を考えてみましょう。
大きくは次のような理由が挙げられます。
ソーラー・パネルの設置工事は、特別な問題がなければ、数人が実働1日~1.5日程度で工事を完了できます(雨が降ると工事ができませんから、天候などによって工事期間はもっとかかることもあります)。工事にかかる費用の多くは、作業者の労務費です。この労務費は、設置するパネルの出力が小さければ少ないかといえば、ほとんど変わりません。設置するパネルが少なければ、パネルの設置作業自体は多少短縮できるでしょうが、パワーコンディショナ(→用語解説)などを設置するための屋内配線工事などは出力によらず同じです。このため出力が小さいと、それだけキロワットあたりの労務費負担は大きくなってしまうわけです。
国の補助金にせよ、都道府県、市区町村にせよ、太陽光発電システムの設置に対して提供される補助金は、ほとんどの場合、設置するソーラー・パネルの出力(kW)にキロワット単価をかけて補助金を算出しています。青天井ではなく、上限金額が決まっている場合も多いのですが、基本は出力キロワット×補助金キロワット単価です。したがって出力が小さいと、受給できる補助金がそれだけ少なくなってしまいます。
ソーラー・パネルの購入にかかる費用は、出力数にほぼ連動しますが、パワーコンディショナはそういきません。別記事に各社の住宅向けパワーコンディショナの一覧がありますが、この表の「最大定格出力」を見ると、3kW前後、4kW、5.5kWに対応したものをラインアップしているところが多いことがわかります。大は小を兼ねますから、大出力に対応したパワーコンディショナを小出力パネルに使うこと自体は可能です。しかしパワーコンディショナの価格は出力に応じて高額になるので、2kW程度の小出力向けのパワーコンディショナをラインアップしているメーカーは少ないことから、無駄な費用がかかってしうことになります。
次に簡単な例を見てみましょう。前述ではさまざまな理由を紹介しましたが、ここでは補助金とパワーコンディショナの問題は無視して、工事費と、設置後に発電によって回収できる費用についてのみ注目します。グラフの左右(緑と赤のバー)は、ある出力のパネルを設置した場合の工事費とシステム費用、その2倍の出力パネルを設置した場合の工事費とシステム費用です。屋根の条件とか、日射の条件、家での電力消費などは両者で同じとします。
上で述べたとおり、出力には2倍の差がありますが、工事費は変わりません。太陽光発電システムの費用は、ここでは単純に2倍としました。
こうして設置したソーラー・パネルで発電を開始し、電気代を削減したり、売電収入を得たりして、少しずつ費用を回収していきます。当然ながら、2倍の出力のパネルを設置すれば、発電量は2倍になりますから、電力消費などが同じなら、それだけ費用回収のペースは早まります。費用回収分を表したのが真ん中にあるオレンジのバーです。
グラフは、2倍出力のパネルを設置した家が、電気代の節約や売電収益で、太陽光発電システムの設置費用をちょうど回収したところです。この時点で、1倍のほうはその半分の費用回収になります。当然ではありますが、こちらはまだ、初期費用の回収はできていません。逆にいえば、1倍のケースで費用回収するには、2倍のケースよりも余計に時間がかかるということです。
多少よけいに時間がかかっても、初期費用を回収できるレベルなら設置して問題はありませんが、あまりに出力が小さいと、費用を回収する前にパワーコンディショナなどの機器の寿命がきて、修理などの再出費が発生してしまう恐れが出てきます。「設置不適」という判断を受けるのは、たとえばこのような場合です。つまり設置はできるが、最終的にプラスにならない恐れが高い、ということです。そして現時点の各種条件からすると、2kW前後がその境界になることが多いのです。
業者がどういおうと、最終的に設置を判断するのは消費者ですが、高価な買い物ですから、どのようなリスクがあるのかは、よく相談・検討して決めるようにしてください。
(2011/9/14 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。