2010年3月3日から5日の3日間にわたり、東京国際展示場(東京ビッグサイト)において太陽光発電システムに関する展示会「PV EXPO 2010」が開催されました。開催者のリード エグジビション ジャパンによれば、3日間の来場者は8万45人(!)とのこと。実際、会場は通路をまっすぐ歩くのも大変なほどの混雑ぶりでした。太陽光発電システムがどれだけ注目されているかを実感しました。PV EXPOは、どちらかというと事業者向けに新製品や技術などを紹介する場ですが、今回は消費者代表としてイベントに乗り込み、消費者視点で気になった製品や技術などについてレポートしようと思います。
太陽光発電システムは、日本のメーカーが先行して開発してきたこともあり、数多くの国内メーカーが製品を販売しています。しかし最近では、急拡大しつつある日本の市場を狙った海外メーカーの国内参入が目立っています。今回のPV EXPO 2010でとにかく目立ったのは、数多くの国外パネル・メーカーがブースを構え、自社製品を紹介していたことです。中国や台湾、韓国、インドなどのアジア勢に加え、アメリカやカナダのパネル・メーカーなどが虎視眈々と日本市場を狙っているようです。ただし、多くのメーカーは、日本での販売パートナーを探している段階で、すでに具体的なパートナーを決めて発売を決定したところは少数のようです。今後数多くのメーカーが国内に参入して競争が進み、パネルの価格が下がっていくことを期待したいですね。
その一方で気になったのは、同様の太陽光発電向け展示会の「PV Japan 2009」は出展したものの、PV EXPO 2010は出展を行わなかった国内メーカーが複数あったことです。主要な国内メーカーとしては、カネカ、ホンダソルテック、三洋電機の3社は、PV EXPO 2010には出展していませんでした。理由はわかりませんが、すでに国内市場は本格的な普及期に入ってきており、こうした大手メーカーは、イベントで不特定多数の業者向けに自社製品を紹介することより、販売店網の拡充などに重点を移しているのかもしれないと思いました。
京セラは、PC EXPO 2010の開催日の前日にあたる3月2日に、太陽電池セルの増産と販売体制の強化について発表していました。PC EXPO 2010の会場では、プロトタイプとしてバックコンタクト方式(セルの裏側に配線することで、配線による発電ロスを少なくす技術)を採用した太陽電池パネルが展示されていました。住宅向けの主力製品であるサムライシリーズなどの展示はなく、全体的には地味な印象を受けましたが、理由は先に触れた、大手3社が出店を取りやめた理由と共通するのではないかと思います。
サンテックパワージャパンは、PV EXPO 2010の開催前に新製品を発表していたこともあり、その新製品を中心に展示していました(新製品の概要は、別稿の「サンテックパワージャパン、変換効率を向上させた太陽光発電モジュール「オン・ザ・ルーフ」4モデルを発表」参照のこと)。また日本の瓦やスレートの屋根への設置を容易にする取り付け金具を展示するなど、日本市場を強く意識した展示も行っていました。
シャープは、人工衛星など向けの化合物系太陽電池セル(変換効率35.8%)や、東海大学のソーラーカー「Tokai Challenger」を展示するなど、技術力を訴求する展示内容でした。変換効率35.8%の太陽電池セルが家庭向けでも利用できると、これまでの半分以下の面積で同じ発電量を実現できるのですが、まだ価格的な面で難しいようです。
2010年4月1日に社名を「ソーラーフロンティア」に変更すると発表した昭和シェルソーラーは、銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)元素からなる化合物半導体の薄膜を利用するCIS太陽電池(→用語解説)のメーカー。PV EXPO 2010のブースでは、CIS太陽電池のロードマップが展示されていました。結晶系太陽電池に比較すると、変換効率で不利といわれるCIS太陽電池ですが、研究所レベルでは変換効率が16%を超え、2012年にはこの技術を製品に適用して、変換効率14.2%(モジュール変換効率13%)を達成する予定ということです。さらに改良を加え、2014年ごろには変換効率15%(モジュール変換効率14%)と、多結晶型シリコン太陽電池と同等の変換効率が実現できる見込みとしています。
また昭和シェルソーラーでは、参考出品として、枠を狭くしたパネル(フレームレスモジュール)の展示がありました。枠が狭く目立たないため、パネルを並べた際の見た目がよいのが特徴です。また枠が狭い分、同じ面積の屋根でも多くの枚数を置けるようになる可能性があります。
CIS太陽電池は、結晶型シリコン太陽電池に比べて、一般に製造コストが安いという利点があります。一方で、面積当たりの出力(変換効率)が低く、より効率の高いモジュールと同じ発電出力を得るためには、より広い面積が必要になるという欠点がありました。しかし、昭和シェルソーラーが示すロードマップどおりに開発が進めば、2014年には結晶シリコン形太陽電池に十分対抗可能な変換効率を持つ製品が登場するかもしれません。
東芝は、PV EXPO 2010の開催直前の3月1日に新規参入を発表したこともあり、多くの人が集まっていました(別稿「東芝、米サンパワー社製太陽電池モジュールを採用して住宅用太陽光発電システム事業に参入」参照のこと)。東芝が採用した米国サンパワー製の太陽電池モジュールは、セルの裏側に配線することで、16.9%という高いモジュール変換効率を実現しているのが特徴です。表面に配線がないことから、見た目もすっきりとしていました。
2月26日に発表したばかりの新製品「大出力無鉛はんだ太陽電池モジュール 190Wシリーズ」を前面にした展示が行われていました。昨年のPV Japan 2009と同様、テレビで発電状況などの確認ができる「エコガイドTV」や、97.5%という高い電力変換効率を実現したパワーコンディショナ(→用語解説)の展示もありました。
このほか、セルの表面にディンプル(凹凸)をつけることで多結晶形シリコン太陽電池としては世界最高の変換効率19.3%を実現した太陽電池セルや、影になった部分があっても高い発電効率を維持できるパワーコンディショナの開発に関する展示もありました。ただし、現在のところ、これらの製品化は未定ということです。
太陽生活ニュース「韓国製太陽光発電パネルの国内販売参入が相次ぐ。パネルの低価格化につながるか?」でも取り上げたように、韓国のメーカーの日本国内市場への参入が続いています。PV EXPO 2010でも、サニックスが国内販売を行っているLS電産が出展していたほか、新興マタイのブースではエス・エナジーとエー・ディー・ソーラーの製品が展示されていました。新興マタイによれば、施工業者に対する工事認定(施工ID)の発行などを検討しており、これから本格的に施工業者の募集などを行うということです。
また、現代重工業は大きなブースを構え、韓国のEXPO Solarで発表した製品の展示を行っていました。単結晶型と多結晶型をラインアップしており、どちらも部分的な陰影による出力低下を防ぐバイパスダイオードを内蔵しているということです。現代重工業のブースの片隅では、販売代理店や施工業者と積極的に話しをする担当者の姿が見受けられました。2010年前半にも日本国内での販売を開始するということです。
韓国メーカーではありませんが、中国のトリナソーラー、台湾のモーテックとジンテックエナジーコーポレーションも日本市場への参入を計画しているということです。こうした海外メーカーの日本市場への参入によって、製品の選択肢が増え、競争による低価格化が実現することに期待したいところです。
このほか気になった展示を紹介します。
PV EXPO 2010では、色素増感型太陽電池の展示も数多くありました。色素増感型太陽電池は、変換効率や耐久性の点で、現時点では住宅用の太陽電池には不向きとされています。しかし柔らかく、製造コストの低い太陽電池を実現できるため、さまざまな用途への利用が期待されています。今後、技術開発が進むことで、さまざまな製品に色素増感型太陽電池が利用されてくる可能性があります。
また京セミは、直径約1.8mmの球状シリコンを敷き詰めることで太陽電池モジュールを構成する「スフィラー」を展示していました。表裏なく発電でき、ドーム型などのように自由な形状を作ることもできるということです。また、光を通す(シー・スルー)太陽電池モジュールも作れるため、窓などを太陽電池モジュールにすることができるとしています。
太陽電池以外にも面白い製品がありました。タイゴエナジーは、ナショナルセミコンクターのソーラーマジック(SolarMagic)の対抗製品となるマキシマイザー(Maximizer)の展示を行っていました。部分的な日陰や製品のばらつきなどによる、各モジュールの発電量のばらつきから、システム全体の発電量が下がってしまうことがあります。ソーラーマジックやマキシマイザーを太陽光発電モジュールの間に接続することで、モジュール間の発電量のばらつきを調整して全体の発電量を向上させることが可能になるとしています。なおマキシマイザーでは、無線LANを使って、宅内に設置したコントローラと通信するので、配線が不要という特長があります。面白いのは、このコントローラはインターネットに接続されていて、データがタイゴ社に送られ、発電状況などをインターネットから確認できることです。会場では、デモとして、テキサス州にあるとあるお宅の発電状況をリアルタイムに紹介していました(写真)。
日本では、電柱の影などから発電量が落ちてしまう住宅が少なくありません。このような環境では、ソーラーマジックやマキシマイザーといった製品を利用することで、発電量を維持できる可能性があります。こうした製品は、まだ一般的ではありませんが、住宅事情によっては太陽光発電システムの導入に際して検討してみるとよいかもしれません。
以上、主要なパネル・ベンダの展示内容と動向を、PV EXPO 2010での取材結果と合わせてまとめました。PV EXPO 2010の会場の混雑は、それだけ国内の太陽光発電市場の拡大を示すものでしょう。すでに述べたように、今後は国内のベンダに加え、中国や韓国、台湾など多くのパネル・ベンダが国内市場に参入して、製品の選択肢が増えます。競争が激しくなれば、パネルの低価格化が期待できますが、太陽光発電は10年、20年と長期間にわたって利用するものなので、価格だけでなく、製品の品質や保証面などにも注目すべきでしょう。信頼できる施工業者に相談するなどして、ご自身の設置条件に適している太陽光発電システムを選択するようにしましょう。
(2010/3/26 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。