2008年7月末に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」の中に次のような記述があります。
「3~5年後に太陽光発電システムの価格を現在の半額程度に低減することを目指す」
(低炭素社会づくり行動計画より)
ニュースなどで取り上げられたため、この閣議決定の直後は、「太陽光発電システムは今後急速に値下がりするから、あわてて買わないほうがよい」という声をよく聞きました。しかし「半額程度に低減」の具体的な根拠は何も示されておらず、文章をよく見ても、「目指す」と努力目標を語っているだけで、断定しているわけでも、予測しているわけでもありません。時間がたつにつれて、この発表のことはだれも取り上げなくなりました。読者の疑問がこの発表に関連しているなら、まずは発表のことは無視してよいでしょう。
この発表はさておき、太陽光発電システムの普及が進むのにしたがって、価格も低下傾向にあるのは事実です。しかし価格を左右する要因にはさまざまなものがあり、単純にこうなるというお話はできません。ただ結論からいえば、価格は下がるにせよ、変化は急ではなく、ゆっくりと進む可能性が高いと思われます。また国は、補助金や余剰電力の買い取り価格を太陽光発電システムの実勢価格によって調整するとしており、急激な価格変動はある程度管理されています。システム価格が下がった場合は、補助金単価や売電単価も下がります。買い控えたほうが得、となって普及が広がらなければ、大量生産による価格低下も進まないからです。
太陽光発電システムの今後の価格動向を占うのは簡単ではありませんが、ここでは、太陽光発電システムの中でも、最も金額の大きいソーラー・パネル(→用語解説)に絞って、価格に影響しそうな要因をまとめてみます。
原稿執筆時点(2011年12月)で、ソーラー・パネルの価格に最も大きな影響を与えているのは、パネルの受給バランスだといってよいでしょう。
世界同時不況が起こる以前は、地球温暖化問題への有力な対応策として太陽光発電が注目され、特に欧州(ドイツやスペインなど)で高額な全量買取制度が実施されたことから、大規模な太陽光発電所が次々と建設されました。このときは、パネルの供給が需要に追い付かなかったほどです。将来に向けたますますの需要を見込んで、アジア地域(中国など)を中心に、新しいパネル・メーカーが誕生したり、既存の工場の規模が拡大されたりして、世界的に生産能力の拡大が進められました。
しかし世界同時不況以後は事情が一変します。世界が長期的な景気低迷に見舞われると、地球温暖化問題は経済問題の影に隠れてしまいました。また、パネルの生産能力が大幅に向上したにもかかわらず、欧州危機によってそれまでパネル需要を支えていたヨーロッパ市場が大きく冷え込んでしまいました。この結果ソーラー・パネルは世界的に供給過剰に陥っており、価格低下圧力が高まっています。実際、ドイツのQセルズや中国のサンテックパワーなど、世界の名だたるソーラー・メーカーが、大きな赤字を計上したり、中堅ソーラー・パネル・メーカーの中には倒産したりするところも出てきています。
あくまでも一時的な傾向かもしれませんが、当面の間、ソーラー・パネルの世界的な供給過剰は続きそうです。どのメーカーも、パネルの不良在庫は抱えたくないでしょうから、卸価格の低下圧力は当面継続されるものと思われます。
住宅向けとしては一般的な結晶シリコン型(単結晶シリコン、多結晶シリコン)のセル(→用語解説)を利用したソーラー・パネルを製造するには、大量の原料シリコン(Si=ケイ素)が必要になります。前述した欧州での活況時には、原料シリコンの価格が高騰し、結果としてソーラー・パネルの値上がり現象が起きました。しかしその後は、ソーラー・パネル用の原料シリコンの製造能力が高まったところにきて、前述した世界不況が起こり、シリコン原料価格は安値安定といわれています。
シリコン原料が高価だったときには、わずかな原料シリコンで製造可能なシリコン薄膜系のソーラー・パネルが注目されていましたが、最近ではあまり話題に上らなくなってきました。シリコン薄膜パネルは、結晶系パネルほどは変換効率が高くありません。シリコン原料が値下がりしてしまったため、「原料の使用量が少ないので安く作れる」というメリット小さくなってしまったのが一因になっています。
国内で住宅向けに販売されているソーラー・パネルのうち、原料にシリコンを使わない化合物型と呼ばれる製品を販売しているのが、ソーラーフロンティア(CIS型太陽電池→用語解説)とホンダソルテック(CIGS太陽電池→用語解説)です。このうち特にソーラーフロンティアは、積極的に性能向上させるとともに、工場の生産能力を大幅に拡大して、国内販売にも力を入れています。
化合物型のソーラー・パネルは、主流のシリコン結晶型に変換効率の点で劣るという欠点があり、狭い屋根に少しでも出力の大きなパネルを搭載したいと考えるユーザーが多いことから、これまではなかなか選択の対象になりませんでした。しかしソーラーフロンティアは技術改善を続けてパネルの変換効率を段階的に向上させてきており、結晶型パネルの下位製品と比べて劣らない性能を持つようになっています。
変換効率だけに注目してしまうと、全般的にはまだ結晶系パネルが有利ですが、CIS型のソーラー・パネルには、曇りでもよく発電するという特徴があり、年間トータルの発電量でみると、結晶型パネルに勝るとも劣らないという報告もあります(→関連記事)。また影がかかっても発電量が落ちにくい、低価格化が容易などの利点もあり、最近では住宅向けにも積極販売されています。今後ますます結晶系パネルとの競争が激しくなれば、パネル市場全体の価格低下圧力になっていくと思われます。
ここ数年、中国を中心に、ソーラー・パネルの新興メーカーが次々と登場しています。サンテックパワーなど、自社で日本向け販売を手掛けているところもありますが、国内の住宅関連メーカーなどが、パネルを輸入して国内販売する例などが増えています。中国の無名メーカーの製品となると少々不安ですが、販売を国内の大手企業が担当するなら安心して購入できます。
ほとんどの場合、こうした新興メーカーの強みは、低価格です。超円高ということもあり、海外メーカーは日本向けに安価に販売できる環境が整っています。当然ながら、こうした安価なパネルが消費者の選択に入ってくれば、国内パネル・メーカーもそれに競合できる価格を提示する必要に迫られます。結果として、パネルの平均価格を押し下げる要因になります。
ここではソーラー・パネルの価格動向に注目して説明してきました。大量製造できるパネルは、これまでに述べたようなさまざまな要因から価格が変動します。
しかし太陽光発電システムの設置に不可欠な施工のコストは、人的な作業がほとんどなので、将来的にもそれほど価格低下は見込めないでしょう。つまりこの理由から、仮にモジュールの価格が半分になったとしても、設置コスト全体は半分にはなりえません。注意してください(→関連記事)。
(2011/12/5 更新)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。