光(ひかり)博士:
本業は太陽光発電システムの研究だが、世の中に太陽光発電を普及させるために、初心者を対象とした太陽光発電の教室を開いている。
緑(みどり)ソーラー(ソーラーママ):
一男一女を持つ専業主婦。クリーンで家計も助かると聞き、太陽光発電に興味津々。わからないことだらけなので、光博士の教室に勉強しにやってきた。
博士、こんにちは!
やあやあ、ソーラーさん。
博士、今日も質問があるんですけど。
もちろん大歓迎じゃよ。
太陽光発電システムの設置費用って、けっこう高いじゃないですか。
そうじゃな。屋根にのせるパネルの枚数にもよるが、150~200万円くらいと、自動車1台分くらいはするからのう。
条件さえ合えば、ゆくゆくは元がとれるとはいえ、やっぱり家計を預かる主婦としては、一大決心が必要な金額です。
それはそうじゃな。こう世の中が不景気だと、何かの備えに使わないでとっておいたほうがいいと思う人も多いじゃろう。
そこで質問なんですが……。
わたし、5年くらい前に、インターネットを使いたくてノートパソコンを買ったんです。
ふむ。いまや家庭の主婦とて、ショッピングに、情報収集に、インターネットは不可欠じゃからな。
近所の家電量販店で買ったんですけど、同じノートパソコンでも、高いのから安いのまですごく幅があって、説明聞いたけどよくわからなくって、結局、中くらいの値段のを買ったんです。
そういうもんじゃろうな。
気に入って使ってたんですけど、しばらくして、たまたまその家電量販店にいったら、わたしが買ったノートパソコンが大幅値引きになっていて、ものすごくショックを受けたんです。もっとスピードが速くて、もっと画面も広い新機種が出ていて、くやしいことに、わたしが払った金額で買えるじゃないですか! もう少し待っていればと思うと、くやしいやら、がっかりするやらで……。
パソコンの新陳代謝は早いからのぅ。まあそれは仕方のないことじゃよ。
パソコンはまあいいとして、新聞記事とか見ていると、ソーラー・パネルの値段もちょっとずつ値下がりしてるようじゃないですか。
おお、そうつながるわけか。確かに、ソーラー・パネルはいろいろな事情から少しずつじゃが値下がりしてきておるな。
やっぱりそうですか。ソーラー・パネルも、パソコンみたいにどんどん値下がりするんですか? すぐに買わないで待てば、もっと良くて安いのが出てくるんですか?
ソーラーさんの心配はもっともじゃな。じゃが断言はできんが、待てば待つほど得、ということにはならんじゃろうな。
どうしてそんなことわかるんですか。最初の出費が少なければ、設置費用の回収も早くなるじゃないですか。
まあまあ。それじゃあ、太陽光発電の設置費用についてちょっと一緒に考えてみよう。
太陽光発電システムにはソーラー・パネルを始めパワーコンディショナ(→用語解説)や発電モニタ(→用語解説)などさまざまな機器が含まれるが、システムの中で占める費用割合も大きくて、価格の変化も激しいソーラー・パネルに注目して話を進めよう。
屋根に載せるソーラー・パネルですね。
うむ。そのソーラー・パネルの価格は時間とともに少しずつ安くなってきておるな。
やっぱり。聞けば、パソコンに入っているコンピュータ・チップもシリコンからできているっていうし、ソーラー・パネルもシリコンでしたよね。ということは、ソーラー・パネルもパソコンみたいにこれからどんどん安くなるんですね!
これこれ、はやまるでない。確かに、結晶系といわれるソーラー・パネルはみなシリコンを使っておる。パソコンとまったく無関係ともいえんのじゃが、ソーラー・パネルは別じゃよ。
ふうん、そうですか。じゃあ、時間とともに値下がりする理由って何なんですか?
大きな理由は2つじゃろうな。1つはソーラー・パネルを安く作れるようになったこと、もう1つは、世界的な不況の影響で、安くしないとパネルが売れんからじゃよ。
どうして安く作れるようになったんですか?
原料となるシリコンの値段が安くなってきたことと、特に中国などアジア地域で大規模なパネルの製造工場がたくさんできて、大量に作れるようになったことじゃ。ソーラーさんも知っていると思うが、製品というのは、一度にたくさん作れると、1つあたりのコストを下げることができるんじゃ。
それくらいは私だってわかりますよ。一人分ずつ違った料理を作るのはたいへんだけど、家族全員の分をまとめて作れば、手間がかかりませんもんね。
うむ。まあそんなところじゃな……。それから海外製品が安く日本に入ってくるという意味では、円高の影響もあるな。
円高って、いろんなところに影響するんですね。ところでシリコンの値段はどうして安くなってるんですか?
これも不況が影響しておる。不況で需要が減っていて、価格が下落しているようじゃ。
でも日本の新聞記事を見ていると、太陽光発電システムを設置する家はどんどん増えているようですけど……。
国内の住宅向け需要は旺盛なようじゃが、海外市場、最近はヨーロッパ、特にメガソーラーと呼ばれる、太陽光発電所向け需要の冷え込みが大きいようじゃ。
ふーん。ソーラー・パネルの市場って、世界でつながってるんですね。
そのとおりじゃ。
でもこの値下がりはずっと続くんでしょうか?
短期的な変動は今後の市況次第というところじゃが、長期的に見れば、太陽光発電システムの普及とともに、少しずつソーラー・パネルの値段は安くなっていくじゃろうな。
なあんだ。やっぱり待てば待つほど安くなるんじゃないですか。
特別な理由がなければ少しずつ、な。じゃがなソーラーさん、自宅に太陽光発電システムを設置するなら、ソーラー・パネルの価格以外のことも考えなくちゃいかん。
ソーラー・パネルの価格以外も、ですか?
住宅向けに太陽光発電システムを設置するときには、国から補助金がもらえることはすでに説明したな(詳細は別の回を参照)。
もちろん知ってますよ! 補助金がもらえるっていうから、太陽光発電システムに興味を持ったくらいですから。
しかも運がよければ、国からだけではなくて、都道府県や、市区町村からも別々に補助金をもらえることもある。
そうですそうです。
なんだか目がらんらんとしてきたぞ、ソーラーさん。じゃがな、この補助金、太陽光発電システムの市況に応じて変わることになっておる。つまりシステムが安くなれば、補助金も少なくなるんじゃ。
えっ!? 補助金が減っちゃうんですんか?
たとえばな、2009年度(平成21年度)と2010年度(平成22年度)の国の補助金は、ソーラー・パネルの出力キロワットあたり7万円じゃった。しかし2011年度(平成23年度)からは、これがキロワットあたり4万8000円と2万2000円も下がったんじゃぞ。これは、「太陽光発電システムの価格が低下したから」というのが理由になっておる。
えええっ!? そうだったんですか? それじゃあこれからもソーラー・パネルが値下がりしたら、補助金もどんどん減っちゃうんですか?
そうじゃ。もともとこの補助金は、太陽光発電を普及させて、価格を安くして、もっともっと普及を促そうという目的のもので、十分安くなったら、補助金はなくなるはずじゃ。
そ、そうなんですか……。でも国はなくなっても、都道府県とか市区町村のほうの補助金はどうなんですか?
それぞれの都道府県や市区町村の考え次第じゃが、基本的には、国の補助金を参考にしておるから、国が減ったりなくなったりすれば、これらも同じようになるじゃろうな。
うわー! 補助金がなくなっちゃうんなんて、困ります!
まあまあ落ち着いて。ただなソーラーさん、システム価格が下がると、連動して下がるのは補助金だけじゃなくて、売電単価も下がるんじゃよ。
えっ、売電のほうも安くなっちゃうんですか?
うむ。太陽光発電の余剰電力(→用語解説)を高額で買い取る政策は2009年11月1日から始まったんじゃが、このときの売電単価は48円/kWhじゃった。この単価は2010年度もそのままだったんじゃが、2011年度からは、42円/kWhに値下げされたんじゃ。この理由も、システム価格が値下がりしたからじゃ。
48円から42円……、でも6円の値下げだったらそれほどでもないか……。
いやいや、この売電単価は余剰電力に掛け算するもんじゃし、単価も向こう10年間継続されるから、長い目でみると6円/kWhの差は小さくないぞ。
どれくらいになるんでしょうか?
うむ。ではちょっと例を使って考えてみよう。たとえばいま、全国平均といわれる4kWのソーラー・パネルを設置した家があったとする。地方や設置の条件(影が入らないなど)によっても変わるわけじゃが、日本ではだいたい1kWのパネルで、1年間に1000kWhくらい発電できるとされておる。4kWのパネルじゃから4倍にして4000kWhを太陽光で発電するわけじゃな。そして仮に、このうちの半分の2000kWhを売電するとしよう。10年間の差はこんなふうになるぞ。
うわぁ! 10年分だと10万円以上ですか!
そうじゃ。この例では発電量の半分を売電するとしたが、たとえば共働きで、昼間はほとんど電気を使わないような場合はもっと売電できるじゃろう。そうすると、この差はもっと多くなるな。
……それで、この売電単価もまだまだ下がるんでしょうか……。
こちらも太陽光発電システムの市況を見て、値段が下がれば単価を下げていくことになっておる。
うーん、ソーラー・パネルが安くなるのはうれしいけど、補助金や売電単価が下がっちゃうのは困りますね……。
それともう1つ。太陽光発電システムの設置費用を考えるうえでは知っておくべきことがある。
なんでしょうか?
仮にソーラー・パネルなどの機器の値段が半額になったら、設置費用はどれくらいになるかな?
何をくだらないこといってるんですか。機器が半額になったら、当然いままでの半額で設置できるようになるでしょう。
それがそうはらならんのじゃ。
どうしてですか?
機器の値段が下がったからといって、屋根に上ってパネルを据え付けて、家の中にパワーコンディショナやら発電モニタやらを設置して、これらを接続する工事のほうは、簡単になるわけじゃない。
あ、そうですね。
太陽光発電システムの設置費用は、機器の費用と工賃が半分ずつくらいということじゃから、図にすればこんな感じになるな。
あらら、機器が半額になっても、全体費用は25%しか安くならないってことですか。
ここではわかりやすくするために半額にしてみたが、そう簡単に半額になどならんじゃろう。まあとにかく、機器の価格低下がそのまま設置費用全体に及ぶわけではないってことじゃ。
うーん、なるほど……。
以上まとめると、ソーラー・パネルなど機器の価格は長い目で見れば下がっていくが、特別な理由がない限り少しずつしか値下がりしない。機器が値下がりすると、補助金や売電単価もそれをにらんで値下げされる。機器の費用にかかわらず工賃は変わらないから、設置費用全体は機器の値下がりがそのまま反映するわけではない。こういうことじゃな。
うーん……、じゃあ、結局待ったほうがいいんですか、いますぐ設置したほうがいいんですか?
結果的にどちらが得かというのは一概にはいえん。値下がりをいつまでも待つとか、補助金狙いで無理をして急いで買うとか、そういうことではなくて、資金計画や自分の生活スタイルなどをしっかり考えて、設置して後悔しないという自信が持てたら、そのときに設置すればいいということじゃ。
そうかぁ……。自分で考えないといけないってことですね。
そうじゃな。じゃが別にそれは、太陽光発電システムに限らんじゃろう。
それもそうですね! 博士、よくわかりました! どうもありがとうございました!
しかし、お金のこととなると相変わらず厳しいのう、ソーラーさんは……。
(2011/10/25 公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。