光(ひかり)博士:
本業は太陽光発電システムの研究だが、世の中に太陽光発電を普及させるために、初心者を対象とした太陽光発電の教室を開いている。
緑(みどり)ソーラー(ソーラーママ):
一男一女を持つ専業主婦。クリーンで家計も助かると聞き、太陽光発電に興味津々。わからないことだらけなので、光博士の教室に勉強しにやってきた。
太陽光発電システムを設置して効率よく発電するには、家の屋根の大きさや方角が重要だとわかったソーラー・ママ。条件が悪いと、設置に向かない場合もあると聞き、自分は大丈夫かとちょっと心配に。今日は「太陽光発電と屋根の関係」の続き。はてさて、ママのうちは大丈夫か……。
博士、こんにちは! 太陽光発電に向かない家があるなんて聞いて、ちょっと心配になったから、今日は家の屋根を調べてからきました。早く続きを教えてください!
おおよしよし。準備万端じゃな。それじゃあ「太陽光発電と屋根」の続きを説明しよう。
まずは日本の住宅で使われている代表的な屋根の形を紹介しよう。
家の屋根なんて、今まであまり気にしたことがなかったけど、前回博士の話を聞いてから、家々の屋根を見ながら歩くようになっちゃいました。よく見ると、いろんな種類がありますね。
そうじゃな。ここに示した4種類は基本の形で、実際の住宅はもっと複雑な形をしているケースが多いじゃろう。さて、ソーラーさんの家はどれかな?
うーんと、うちは「寄せ棟」の形ですね。
最近の家では一般的な形じゃな。ソーラーさんには直接関係ないかもしれんが、まずは屋根の形ひとつひとつについて、特徴を押さえておこう。
はい。お願いします!
まずは切妻(きりつま)屋根。2つの屋根の面が真ん中で合わさった形じゃな。日本の家の屋根の形状としては代表的なものじゃ。
私が子供のころ住んでいた家もこれだったような気がします……。
そうじゃな。昔の家はほとんどこの屋根じゃった。1つの面が大きくて、発電モジュールは比較的載せやすいぞ。
なーるほど。
ただし屋根の方角が重要じゃ。次の図を見てみよう。
普通、日照がある南側には窓とかベランダとかを作るから、特別な理由がなければ、図の左側のように、切妻屋根の面は南北に向いていることが多い。この場合は南側の面に発電モジュールを置けば効率よく発電できる。
そうですね。
じゃが土地の形とか、周囲の条件などによって屋根の面が東西を向いている場合は、南側に斜面がとれない。東西の面にもモジュールは置けるが、南面に比べると発電効率が落ちてしまう。これは前回説明したな。
そうでした。屋根の形だけじゃなくて、方角にも注意しないといけませんね。
次は寄せ棟(よせむね)。屋根の面が4つあって、それらが4方向に流れている屋根じゃ。特に住宅密集地などではこの形の屋根が多いぞ。
ふうん。でも、どうして住宅密集地で多いんですか?
うむ。これは、狭いところにたくさんの家が建ったときでも、周囲の家の日当たりを確保するためなんじゃ。
うーんと。この形にすると隣の日当たりが良くなるんですか?
住宅建築のルールを決めた建築基準法というのがあるんじゃが、この中に北側にある家の日照を確保するためのルールがある。本筋じゃないから簡単に説明するが、簡単にいえば次の図のようなことじゃ。図の緑の丸印のところから空を眺めたとして、切妻屋根より寄せ棟屋根のほうが空が広くなるじゃろ。
ああ、なるほど。寄せ棟屋根だと北側も斜面になっているから、空が広くなりますね。うちの屋根が寄せ棟なのも、そういう理由なんでしょうね、きっと。
そうじゃな。さて、ソーラーさんが最も気になる寄せ棟屋根と太陽光発電の関係じゃが……。
ど、どうなんですか、博士。
寄せ棟は四方に斜面がある。つまり必ず南側にも斜面があるという点はいいところ。
それでそれで、欠点は?
屋根の1つ1つの面は小さいから、南面はあってもあまりたくさんのモジュールを置けないことじゃ。
うーん、そうですか、ちょっとがっかり……。
まあまあ、そう気を落とさずに。前回説明したとおり、多少発電効率は落ちるが、東西の面にもパネルは置けるから大丈夫じゃ。寄せ棟屋根に太陽光発電を設置して成功した例は山ほどある。
よかったー。ちょっと安心しました。
さて、次は陸屋根。これは「ろくやね」と読む。「りくやね」と呼ばれることもあるな。陸屋根はこのように、屋根が水平な形をしておる。木造では少ないが、鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りの家にこの形が多い。
ああ、見たことあります。
屋根全体にパネルを置けるから、比較的太陽光発電に向いておるんじゃが、前回説明したとおり、効率よく発電するには、南に向けてある程度傾斜をつける必要があるから、取り付けにあたっては土台を付ける必要があるぞ。また陸屋根は平らだから、足場がなくても比較的安全に工事できる場合がある。
なるほど。残るは片流れですか。これはあんまり見たことがないような…。
一般的とはいわんが、見わたすと結構あるぞ。片流れは、屋根が1面で、一方向にだけ傾斜しているものじゃ。屋根が南側に向けて傾斜しているなら、屋根面全体に発電パネルを置けるから、理想的な形状じゃな。
へぇ、うらやましいなぁ。
じゃが理想的といえるのは、あくまで南側に傾斜している場合じゃ。通常、南側にはベランダなどを作るし、北側はさっき説明した建築基準の問題があって、住宅密集地にある片流れ屋根は、普通は北側に傾斜しておる。図にすればこんな感じ。
この場合は一転、屋根全面が北向きになってしまうので、太陽光発電モジュールの設置は難しくなってしまう。
そうかぁ。単純にはいかないんですねぇ。
さあて、基本がわかったところで、もう少し踏み込んだ話もしておこう。
まだ何かあるんですか。
いままでのはあくまでも基本の話。実際の屋根を見て歩けばわかるが、基本は上のどれかだとしても、デザイン的に入り組んだ屋根にしていたり、採光のために天窓をとったり、屋根に出窓を作ったりと、さまざまな工夫がなされておる。
ああ、そうですね。私も近所の屋根を見わたしてみて、いろんなデザインがあるなぁと思いました。
発電モジュールを置くのに一番いいのは、南側の屋根になるべく広い面があること。細かく入り組んだり、出窓などがあったりすると、トータルではそれなりの面積でも、大きなモジュールは置けなくなってしまうんじゃ。
じゃあ、小さいのをたくさん置けばいいじゃないですか。
そうくると思った。確かに、最近はさまざまな日本の屋根に対応できるように、パネルメーカーもいろいろな大きさや形のモジュールを販売しておる。例えば、四角いパネルを置けない斜め部分にも置ける「コーナー・モジュール」というものもある。
こういうモジュールをうまく使えば、屋根の面を無駄なく活用できますね。
そうなんじゃが、通常の四角いモジュールと比べると、こういう特別なモジュールはどうしても単価が高くなってしまう。メーカーにもよるが、同じ出力でも、普通の四角いモジュールより3~4割くらい割高になってしまうようじゃ。
うーん、そうですか。高いのは困りますねぇ……。
うむ。じゃから、単価の安い、一般的な四角形のモジュールをたくさん置けて、しかもそれが南側を向いている。太陽光発電システムを安く設置して、効率よくたくさん発電するにはそういう屋根が一番ということじゃな。
そう都合よくはいきませんよ、博士。
そのとおり。どうしてそうなるかといえば、いまあるほとんどの家は、太陽光発電のことなど考えずに作られているからじゃ。これから太陽光発電が一般化すれば、建築基準に合致しながら、デザイン的にもかっこよく、しかも安くたくさんのモジュールを屋根に設置できて、たくさん発電できる。そんな家が増えてくるに違いない。
そうかぁ。これから新築で家を建てる人は、太陽光発電のことも考えないといけませんね。
最後に、屋根にモジュールをどんな風に設置するのか見ておこう。例としては、ソーラーさんちの寄せ棟屋根を使おうか。
はいっ、お願いします!
例えば1枚で出力が100Wの発電モジュールを次のように並べたとしよう。
仮に図の下側が南面だと仮定して、一番広い南面には21枚、東面と西面にそれぞれ8枚のモジュールを置いたとすれば、全体では3.7kW(2100W+800W+800W)ということになる。北側の面はあまり発電できないから、普通はモジュールを置かないことは前回説明したな。経済産業省の資料によれば、日本で設置される住宅用太陽発電モジュールの平均出力は3.5kW程度というから、まあこんな感じじゃろう。先ほどのコーナー・モジュールを使えば、もう少し出力を増やせるが、設置コストは高くなるな。
なるほど。うちもこれくらい置けるかなぁ……。
詳しくは、専門家に調査してもらう必要があるぞ。もう少し勉強したら、実際に見積もりをとってみなさい。さて、今日はちょっと長くなってしまった。続きはまた次回。
博士、ありがとうございました。また次回、よろしくお願いします!
(2009/9/11公開)
2015年3月末をもちまして補助金情報の提供は終了しました。