光(ひかり)博士:
本業は太陽光発電システムの研究だが、世の中に太陽光発電を普及させるために、初心者を対象とした太陽光発電の教室を開いている。
緑(みどり)ソーラー(ソーラーママ):
一男一女を持つ専業主婦。クリーンで家計も助かると聞き、太陽光発電に興味津々。わからないことだらけなので、光博士の教室に勉強しにやってきた。
こんにちは、博士!
おっ、ソーラーさん、相変わらず元気そうじゃな。
博士、今日は質問があってきました。
ほう、何かな?
太陽光発電で屋根に載せるソーラー・パネルですけど、故障するって本当ですか?
こりゃまた藪から棒じゃな。
最近、テレビとか雑誌とかでよくそういう話を見かけるので……。
なるほど。よし、では今日はソーラー・パネルの故障の問題について説明しよう。太陽光発電システムには、ほかにもパワーコンディショナなどいくつかの機器があるが、話を簡単にするために、今回はソーラー・パネルに絞って説明することにするぞ。
はいっ、よろしくお願いします!
まずは、ソーラー・パネルの故障に興味を持ったきっかけについて、もう少し詳しく話してもらえるかの。
ちょっと前まで、ソーラー・パネルは故障なんかしないし、ほうっておいても20年くらいは問題なく使えるもんだって聞いてました。
うむ。真偽のほどはともかく、一般にはそういわれておったな。
どこを見てもそういう説明だったので、てっきり故障しないもんなんだと思っていたんです。ところが最近は、テレビとか、新聞とか、こないだなんか美容院で見た女性週刊誌でも、太陽光発電のトラブルとか、ソーラー・パネルの故障の話が出てたんです。
ふむふむ。太陽光発電も、ずいぶんと市民権を得てきたということじゃな。
博士、何をのんきなこといってるんですか。最近のソーラー・パネルは、そんなに粗悪品が増えてるんですか?
いやいや、そういうことではないぞ。
じゃあどうして最近急に、故障の話が増えたんですか?
まあそれはじゃな、太陽光発電が普及して、本来の姿が語られるようになったというかじゃな……。
はっ、博士! じゃあ故障するってのは本当の話なんですか!
これこれ、そう興奮せずに。ちょっと落ち着いてわしの話を聞きなさい。
聞くが、ソーラーさんの家で、20年以上使っている電気製品はあるかな?
えっ、電気製品ですか? うーんと、冷蔵庫はもう15年くらい使ってますかね。オーブントースターも古いけど、20年は経ってないなぁ……。あっ、最近はほとんど使わないけど、私が学生時代から使っていたラジカセがありますね。でもそれと、ソーラー・パネルの故障と何の関係があるんですか?
まあ、20年というのはそれだけ長いということじゃ。
そりゃそうですよ。20年経ったら、赤ちゃんだって成人式なんですから。
そうじゃな。ところでいま聞いた電気製品は、みんな家の中にあるものばかりじゃったな。
そうですけど? 電気製品なんて、ほとんど家の中で使うものばっかりじゃないですか。
うむ。じゃがソーラー・パネルは屋根の上じゃ。
当たり前じゃないですか。太陽の光を電気に変えるんですから。
そうじゃ。じゃがソーラー・パネルは、暑い夏から寒い冬まで、ずっと風雪にさらされるわけじゃ。
だから故障してもしかたないっていうんですか? 当然、ソーラー・パネルはそういう前提でちゃんと作られてるんでしょ?
それはそうじゃな。だがかなり過酷な条件で使われるものであることも事実じゃ。もちろん、そういう厳しい環境で長年使えるように設計されておるがの。
それだし、私が聞いたところでは、ソーラー・パネルはモーターみたいに動くところがないから、故障に強いんだってことでしたよ。確かに、ビデオデッキとか、カセットデッキとか、中に動く部品があると、ある日突然、急に変な音がしだして故障したって経験は私も何回かあります。
ふむ、ソーラー・パネルに稼働部品がない、ってのは本当じゃ。単純にほかの電化製品と比べることもできんわけじゃが、しかし大ざっぱにいえば、どれも工場で作った工業製造物じゃよな。
そうですね。
モノによって、故障しやすいとか、しにくいとかという違いはもちろんあるとして、しょせんは工業製造物なんじゃから、「故障が起きない」ということはありえんのじゃないかな?
ああ、まあ、それはそうですね。
決して故障が多い製品だとは思わんが、こうして普通に考えれば、ソーラー・パネルだって壊れることは、そりゃあるわな。
確かにそうですねぇ……。
雑誌の記事なんかは、たいてい大げさに書きたてるから心配になるが、故障だらけということではない。ただ残念ながら、一定の確率で故障は発生するもんじゃ。
それじゃあ故障してないかいつも注意して、何かあったらすぐに修理しないといけませんね。
そのとおりなんじゃが、ここでソーラー・パネルに特有の問題があるんじゃよ。
ソーラー・パネルに特有の問題?
うむ。「故障」というと、なんだか全然使い物にならなくなるような印象があるから、ここからは「不具合」という言葉を使うことにするぞ。正常な状態ではなく、部分的にではあれ問題が起こっている状態を不具合と呼ぼう。
はい。
実際、ソーラー・パネルの不具合の多くは、ぜんぜん発電しなくなるのではなくて、発電量が正常な状態から少し低下するというものが多いんじゃよ。
へえ、そうなんですか。
天気がいいのに、ぜんぜん発電しなくなったら、原因はわからないにせよ、何か不具合が起こっていることはわかるな。
そりゃそうですよ。高価なシステムを買ったのに発電できないなんて、私だったらパニックになっちゃいますね、きっと。
そうじゃろうなぁ。じゃが、まったく発電しないわけじゃなく、不具合で発電が少し減った場合はどうじゃ。
それだって困りますよ。発電量が減るってことは、売れる電気も減っちゃうってことでしょ。やっぱりパニックですね。
そうかな? ちょっと図を見ながら考えてみよう。この図は、ソーラー・パネルの一部に不具合があって、10%発電量が減ったところを表しておる。本当は下のように、3kWh発電できるはずだったんじゃが、不具合で2.7kWhしか発電できないという状態じゃ。
じゅ、10%も減るなんて許せませんわ! チラシのクーポンとか、スーパーの会員カードとかで、毎日毎日数パーセントの節約努力をしてるんですよ、主婦は。
まあまあ落ち着いて。じゃがソーラーさん、発電量が本来の状態から10%減っているということは、どうやったらわかるかな?
そりゃ発電モニタの数字が減るんだからわかるじゃないですか。
上の図は、比較のために正常な状態も示したわけじゃが、普通はそれはわからんぞ。
うっ、そうですねぇ…。あっ、でも毎日発電量を気にしていれば、「こんなに天気がいいのに2.7kWなんておかしい!」ってわかるんじゃないですか?
そうかな? 日射の強さは時間帯によっても変わるし、季節によっても変わるからのう。そう簡単にはいかんじゃろう。
そ、そうですねぇ……。
これからわかるように、ソーラー・パネルでの発電量は天気まかせじゃから、不具合で少しくらい発電量に変化があっても、なかなかわからないんじゃ。
ということは、少しくらいソーラー・パネルに不具合があっても、それに気づかず使い続けてしまうってことですか?
うむ。それが問題なんじゃよ。
不具合に気づかなかったらどうなっちゃうんですか?
まず、放っておいて不具合が直るということはまずないから、ずっと発電量が少ないままになる。
ずっと損したままになるってことですね。
そうじゃ。太陽光発電システムは、設置のときの初期費用を、その後の毎日の発電で、15年~20年くらいかけて取り返すものだったな。図にすれば次のような感じじゃ。
うーんと、ああ、一番左側のオレンジの棒グラフが初期費用で、それを毎年少しずつ回収して、15年目に元が取れたってことですね。
そのとおり。太陽光発電システムを最初に設置するときには、何年くらいで元がとれるか計算して、それで購入を決断するわけじゃ。
そりゃそうですよ。
しかしたとえば、設置してから6年目に不具合が起こって、発電量が減ったらどうなるか。たとえばこんな風になるな。
ああ、5年目までは上と同じだけど、6年目から発電量が減って回収できるお金も減ったと。あらら、15年たっても初期費用を回収できません。
そうじゃな。それでもこの先も発電してくれて、いずれ回収できればまだいいが、途中でソーラー・パネルが完全に壊れてしまうかもしれんのう。
そ、そんなの困ります!
不具合による発電量の減少がわずかでも、利用期間も長いから、長い目でみたら影響は大きい。しかも困ったことに、不具合が生じたソーラー・パネルでは、時間の経過とともに少しずつ発電量が減り続けるようなケースも多いんじゃ。
どんどん減っちゃうんですか? でもすごく減ったら、いくらなんでも不具合に気づきますよ
じわじわと少しずつ減っていくと、わかりにくいもんじゃよ。
うーん……、高額な買い物なのに故障に気づかないなんて、ちょっと心配になっちゃいますね。
不具合を早期に見つけるにはどうすればいいんですか?
残念ながら決定版という方法はないんじゃが、まずは「自分のパネルは不具合を起こしてないだろうか」と常に疑う気持ちを持つことと、毎月の発電量をメモすることじゃな。
毎月の電気料金の明細票をとっておけば、売電量がわかるからそれをメモ代わりにすればいいですね。
電気の明細票ではだめじゃ。売電するのは余剰電力(→用語解説)だけで、家で使った電気が引き算されてしまう。それではソーラー・パネルの発電量はわからんのぅ。
うっ、そうかぁ。でも発電量ってどうやったらわかるんですか?
発電モニタで確認できるし、機種によってはパワーコンディショナで確認できるようになっておる。月が変わったら、これらの機器で1カ月分の発電量をチェックして、メモしておくんじゃ。
なるほど、発電量を毎月メモして、去年の同じ月と比較して発電量が減っていたら、不具合かもしれないってことですね。
それがそうも簡単ではない。日射量というのは年によっても変わるからのぅ。昨年より少ないからすぐに不具合ということにはならんな。
それじゃあ、メモなんかしたって、結局わからないんじゃないですか。
じゃが年々右肩下がりに減り続けるようなら、やっぱり不具合を疑うべきじゃろうし、何よりそうしてメモしておけば、設置業者やパネル・メーカーに相談するときにも貴重な証拠のデータになるぞ。
ふーん、なるほど。
データもなしに「なんとなく最近発電量が少ない」と相談するより、過去のデータがそろっていれば、業者にもメーカーにも、故障を診断する際におおいに参考になるはずじゃ。
もっと、スキッと不具合がわかる方法はないんですか?
太陽光発電所ネットワーク(PV-NET)という太陽光発電のユーザー会が、健康診断サービス(PV健康診断)をやっておるな。日射量の気象データから、設置場所で期待できる発電量を算出して、そこからの差を調べることで、不具合の可能性を調べられるというものじゃ(太陽光発電所ネットワークのホームページ)。
それは便利ですね。
とにかく、ソーラー・パネルの発電量には常に注意を払うこと、それで何か変だなと思ったときには、まずは設置工事を担当した業者に相談してみることじゃな。
業者はいやな顔をしませんか?
アフターサービスで儲かるわけじゃないから、そういう業者もいるかもしれんし、それ以前に、設置から何年も経ってからだと、移転や何かで連絡がつかなくなる業者があるかもしれん。
そんな、何かあったときに連絡できないんじゃ困るじゃないですか。
じゃから、15年でも20年でも、安心して相談できそうな業者に設置をお願いすることじゃ。信用第一で営業している業者なら、たとえアフターサービスで儲からないとしても、親身に相談に応じてくれるはずじゃ。
なーるほど。値段ばっかりじゃなくて、そういうところも見て業者を選ばないといけないんですね。
そのとおり!
わかりました、博士! 週刊誌を読んで不安になっちゃったんですけど、安心しました! じゃあ夕飯の支度があるんでまた今度!
ふー。さてさて、今度はどんな質問が飛び出すやら……。
(2011/10/11 公開)
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