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教えて!太陽光発電

第15時限目 余剰電力の買取と、全量買取の違いって、何?

光(ひかり)博士:
本業は太陽光発電システムの研究だが、世の中に太陽光発電を普及させるために、初心者を対象とした太陽光発電の教室を開いている。

緑(みどり)ソーラー(ソーラーママ):
一男一女を持つ専業主婦。クリーンで家計も助かると聞き、太陽光発電に興味津々。わからないことだらけなので、光博士の教室に勉強しにやってきた。

博士! こんにちは!

おっ、ソーラーさんじゃな…、へ、ヘークショイ!

あらあら博士、風邪ですか?

んー、そうなんじゃ。昨日の夜から鼻がむずむずしてのう。

それはそれは。博士ももういい年なんだから、体を大事にしないと。

はいはい。ん、へ、ヘークショイ!

博士、こんなときに何ですけど、今日も質問があるんです。

ふぇ? ああ、質問ね。何かな? ヘークショイ!

2012年7月から、日本でも全量買取制がスタート

この前新聞を見ていたら、日本でも2012年7月から、全量買取制度が始まるって書いてありました。

お、おお。そうじゃな。

前に博士に教えてもらったときには(→関連記事)、太陽光発電で作った電気は、まずは自分の家で使って、それで余りがあれば売れるってことでしたよね。

そうじゃ。「余剰電力の買取」という方式じゃな。

そうです。ということは博士、2012年7月からは、それまでの余剰電力の買取方式が、全量買取という違う方式に変わるってことなんでしょうか?

ああなるほど、そういう質問ね。

どうなんですか?

結論からいえば、住宅向けの太陽光発電については、いままでと変わらず、余剰電力の買取方式が継続されるんじゃよ。

えっ、変わらないんですか? それじゃあ新聞に書いてあったのは、どの太陽光発電と関係があるんですか?

ふむ。全量買取になるのは、住宅向けじゃなくて、たとえば大規模な太陽光発電所とか、工場の屋根なんかにソーラー・パネルを設置した場合じゃ。

はあ、そうですか。じゃあ、私には関係ないってことですか?

直接的には関係ないじゃろうな。ただ後で説明するように、太陽光サーチャージ(→用語解説)を支払うという意味では無関係ではないがの。

えっ! サーチャージ?! また出ていくお金が増えるんですか! いったい何のための制度なんですか!

自然エネルギー利用を促進するために、太陽光発電だけじゃなくて、小型の水力発電とか、風力発電、地熱発電なんかも全量買取の対象になる。まだ買取金額など条件の詳細は決まっていないが、できるだけ高く買い上げるようにすれば、設置費用を早期に回収しやくなるから、普及が進むということじゃ。これについてはは、わしが以前にまとめた説明があるぞ。ああこれこれ(→関連記事)。それから全量買取制度が始まると、太陽光発電以外の自然エネルギーで作られた電気も買取対象になるんで、太陽光サーチャージの正式名じゃった「太陽光発電促進賦課金」は「再生可能エネルギー発電促進賦課金」、略して「再エネ賦課金」と呼ばれるようになったようじゃ。

ありがとうございます、後で時間があるときに読んでおきます。で、住宅向けではないってことはわかりましたけど、そもそも、余剰電力の買取と全量買取って、何がどう違うんでしょうか? その再エネ賦課金とやらが増えて、また電気代が高くなるんですか?

まあまあ興奮せずに。それじゃあ今日は両者の違いを教えるとしよう。

博士、説明しっかりお願いします。特に家計に関係するところは丁寧にたのみますよ!

……。

余剰電力買取制と全量買取制

さて、まずは確認と、比較のために、以前に教えた余剰電力の買取制について振り返っておこう。余剰電力の買取制とはこんなものじゃったな。

余剰電力買取制

余剰電力買取制
太陽光発電で作った電気から、自分の家で使った電気を引いて、残った電気(余剰電力)を売電する。

もちろん覚えてますよ! 太陽光発電した電気から、まずは自分の家で使った電気を引いて、余りの電気があればそれを売れるということでした。電気を節約すればするほど余剰電力が増えて、売電でたくさんお金をもらえるんでしたよね!

そうじゃな。この場合、家庭の消費分は自分で作った電気を使うわけじゃから、電気代はかからないんじゃが、電気を使えば使うほど、余剰電力は減ってしまうということじゃな。

はいっ! 現在の住宅向け太陽光発電では、この余剰電力の買取制が使われているんですよね。

そうじゃ。では次は、全量買取制になるとこれがどう変わるのか見てみよう。

全量買取制

全量買取制
使った電気とは無関係に、太陽光発電で作った電気はすべて売電することができる。

えーと……、余剰電力の図と同じで、一番左のオレンジの棒グラフが太陽光発電した電気でしょ。その右隣りの青い棒グラフが家で消費した電気か……、これもさっきと同じですね。それで売電できるのはと……、あれれ? 電気を使ってるのに、発電した電気を全部売ってるじゃないですか!

全量買取制の説明は初めてじゃから、じっくり見ていこう。まずはソーラーさんが指摘したとおり、全量買取制では、太陽光発電で作った全部の電気を売電できるんじゃな。

待ってくださいよ、そりゃけっこうですけど、家で使う分の電気はどうなっちゃうんですか? 自分で使ってるのに、使ってないことにして全部売るなんて、ずるいじゃないですか!

まあまあ落ち着いて。余剰電力買取制のときは、自分で作った電気の一部をタダで使って、残りを売っておった。じゃが全量買取制では、太陽光発電した電気は全部売電できるが、昼間で発電しているときでも、使う電気は常に電力会社から買うことになるんじゃ。

へっ? いま作ってるのがあるのに買うんですか?

そうじゃ。家庭菜園にたとえて考えればわかりやすいかのぅ。自分の家庭菜園があったとして、余剰電力買取制の方式は、できた野菜を自分の家で食べて、余りがあったらこれを市場に売るわけじゃ。

いいなぁ……、うちも市民農園に申し込んだんですけど、抽選ではずれちゃったんです……。

あくまでたとえ話ね、これは。

はっ、そうでした。ええと、じゃあ全量買取制だとどうなるっていうんですか?

全量買取制の方式では、家庭菜園でとれた野菜はいったん全部市場に売ってしまって、自分が食べる分も市場から買うということじゃ。

へぇー、そういうことかぁ。野菜で考えるとわかりやすいですね。電気は目に見えないから、わかりにくくっていけません。なるほど、発電して売電している最中でも、同時に買電することになるってわけですね。売電もたくさんできるけど、使う電気は同時に買わないといけない、ってことか……。

そのとおりじゃ。

住宅用には適用されないってことですけど、やっぱり全量買取のほうが得なんですか?

そうは一概にはいえんな。実際は買電や売電の単価次第じゃな。

ふーん。でも、結局どっちの場合でも、差引で残って、まわりの家で使ってもらえる電気は「余剰電力」の分ってことになりますよね。

それはそうじゃな。

じゃあ何で「余剰電力買取制」と「全量買取制」なんて2つの制度があるんでしょう。それからどうして住宅用は「余剰電力買取制」で、産業用は「全量買取制」なんでしょうか?

家庭菜園で自分で作った野菜はかわいいから、大切に食べるじゃろう。それと同じで、余剰電力買取制の場合、自分の家で作った電気を使うわけじゃから、大切に使うようになる。それから、月々の売電の金額は消費電力を減らすほど多くなる。少しでも売電金額を増やしたいと、節電努力につながりやすいんじゃ。

ええ。でも結局、差引で考えたらたいして変わらないような……。

そうかな? 全量買取制では、自分の節電努力とは無関係に、売電金額が決まってしまう。もちろん節電すれば、支払う電気料金のほうが減って、差引すれば利益が増えるわけじゃが、余剰電力制の場合のように、1つの金額(売電金額)として電気料金の明細にのるわけではない。つまり節電努力の効果がわかりにくくなってしまうんじゃ。

なーるほど、そういうことでしたか。つまり、節電もより努力しやすくなるから、住宅向けは余剰電力買取制なんですね。

実際にはほかにも理由があるんじゃが、大きな理由の1つはそれなんじゃ。

住宅用と非住宅用での、電力買取制度の違い

住宅用は今までどおりに余剰電力買取制が継続されること、その理由もわかりました。けど、住宅以外は何で全量買取制なんですか? そもそも、住宅以外って、具体的にはどんなものがあるんでしょうか?

よく見かける例としては、工場の屋根にソーラー・パネルを付けるとか、市役所や病院、学校、駅舎、商業施設などがあるな。それから住宅の屋根に載せた場合でも、ソーラー・パネルの出力が10kW以上と大きな場合には、非住宅に分類されることになるんじゃ。

へー。あっ! そういえば、こないだ行ったショッピングモールにソーラー・パネルがついてました!

うむ。最近よく見るようになったな。ほかにも注意していると、工場の屋根とか、市役所の屋根なんかにソーラー・パネルが設置されているのを見かけるときがある。

ええ。で、これらは何で全量買取制なんですか?

住宅と違って、これらは大勢の人たちが使う施設じゃし、みんなが電気料金の明細を目にするわけでもない。個人の住宅とはだいぶ事情がちがんじゃな。

なーるほどそうかぁ。それで、新聞では、2012年7月から全量買取に移行ってあったんですけど、それ以前は全量買取じゃなかったんですか?

そう。たとえば2011年度は、非住宅用も余剰電力の買取じゃった。しかも住宅向けの買取単価は42円/kWhじゃが、非住宅向けは40円/kWhとちょっと安かったんじゃ。

どうして非住宅向けは安くなっちゃうんですか?

個人住宅の屋根の大きさはだいたい決まっていて、設置できるソーラー・パネルの出力にはかぎりがある。全国平均では、4kW程度といわれておるな。じゃから、売電するといっても、1軒分の量は知れておるわけじゃ。

まあ、田舎の大きな家なんかだと例外もあるかもしれないけど、ほとんどの住宅は同じような大きさでしょうね。

じゃが、たとえば工場の屋根となれば話が違う。場合によっては、住宅とは比べ物にならないくらいたくさんのパネルを設置することもできる。

そうですね。でも、パネルをたくさん設置してもらって、太陽光発電で電気をたくさん作ってもらえば私たちも助かるし、バンバン売電すれば、会社だって得していいじゃないですか。

それはそうじゃが、売電された電気を買い取るためのお金は、だれが出しておるんじゃったかな?

あっ! 太陽光サーチャージ、ああ、再エネ賦課金に変わるんでしたっけ。名前はともかく、買取に使われるお金は、電気代に付加して国民全員が支払うお金でしたよね! バンバン売電されちゃったら、負担がどんどん増えて、電気代が値上がりしちゃうじゃないですか!

そのとおりじゃ。太陽光発電は増やしたいが、国民の負担はあまり大きくできない。そこで多数のパネルを設置できる非住宅向けは、売電単価が安く抑えられていたというわけじゃ。

ああそうかぁ、さっき住宅の屋根につける場合でも、出力が10kW以上だと非住宅扱いになるっていうのは、そういう理由があったんですね。

そのとおり。自然エネルギー利用の普及と、国民負担が天秤になっておるから、なかなか難しいところなんじゃな。

そうですよ。私たちの生活だってギリギリなんですから。

2012年7月からの全量買取制度はどうなる?

そんなソーラーさんにはちょっと悲しい話をせんといかんのじゃ。

なんですか。

2012年7月から、自然エネルギーから作った電気を全量買取することは決まっておるんじゃが、買取単価についてはまだ議論が続いておる。じゃがどうやら、当初予想されていたよりは、国民負担を増やしても、自然エネルギー利用促進を進めるべきというところに落ち着きそうなんじゃ。

えっ、簡単にいえば、より高額な再生エネ賦課金を請求されそうだってことですか?

う、うむ。そうなんじゃ。いま説明したとおり、まだ決定ではないんじゃが、いまのところ買取価格の案は次のようになっておる。

住宅用太陽光発電と、非住宅用太陽光発電

住宅用太陽光発電と、非住宅用太陽光発電
住宅用は余剰電力の買取が継続される。非住宅用は全量買取制に移行。表は現在検討されている買取単価の案。

うーんと、ああ、上のほうは住宅向けで、こちらはいままでどおり余剰電力の買取で、キロワットあたりは42円ですね。それで下側が今回話題の非住宅用でこちらは全量買取になる、と。あれっ? 太陽光発電が住宅用と同じ42円/kWになってる! しかも買取期間も住宅用の2倍の20年じゃないですか!

そうなんじゃ。

家庭の負担はいったいいくらになるんですか! 家庭をやりくりする主婦がどれだけ大変なのか、わかってるのかしら……。

まだはっきりせんが、標準的な家庭で、ひと月あたり数百円程度といわれておる。ソーラーさんの気持ちはよくわかるが、やはり自然エネルギー利用のほうにより重きを置いたということじゃろうな。2011年3月に東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故があった。その後、原発の安全性に疑問符がついて、全国で原発が稼働を停止、深刻な電力不足が生じる恐れがあることも、価格決定に大きな影響を及ぼしたようじゃな。

うーん、それをいわれると……。自然エネルギーの利用が進むのはうれしいけど、負担が増えるのはやっぱりちょっと心配ですね……。ところで、買取期間が20年と、住宅用より大幅に長いのはどうしてですかか?

住宅用に比べると、設備費用も高いじゃろうし、住宅用よりも費用回収には長い時間がかかるということじゃろうな。

うーん、なるほど。

家庭や企業の負担がどれくらいになるのか、見守る必要があるじゃろうな。

博士、わかりました! 私に関係がある住宅用のほうは、いままでどおりで変わらないってことですね! 全量買取による負担の増加はちょっと気になるけど、小さい子供を持つ身としては原発は心配だし、いっそう節約に励むことにします!

うむ。やはり自然エネルギーの利用を進めることは必要じゃからな。

博士、ありがとうございました!

(2012/5/17 更新)



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